「自然な食事」と尿路結石、198匹の野生猫の尿研究

猫の下部尿路疾患(FLUTD)や尿路結石は、現代の家庭猫でとても多い病気のひとつだ。

とくに1980年代以降、結石の種類や傾向が大きく変化。1981年には78%を占めていたストルバイト結石が、2000年代にはシュウ酸カルシウム結石(CaOx)に逆転される不可思議な現象など、背景には「食事内容の変化」が強く関与していると考えられている。

結石シフトの背景──“いたちごっこ”の歴史

1980年代当時は、リンやマグネシウムを多く含むフードが主流で、ストルバイト結石が多発していた。
その対策として「低マグネシウム化+酸性尿化フード」が広く普及し、ストルバイトは減少。


ところが今度は、酸性化+低Mgの副作用としてCaOx(シュウ酸カルシウム結石)が急増することになった。

さらに、同じ時期にドライフード依存が拡大し、慢性的な濃縮尿が当たり前になったことも、CaOx結石のリスクを押し上げたと考えられている。
結果として、「ストルバイトを叩けばCaOxが出る」といういたちごっこの構図が生まれ、2000年代には結石の主役が逆転してしまった。

結石タイプの時系列推移

年代 ストルバイト結石 シュウ酸カルシウム 背景要因
1981年 78% 2% フードにMg・リンが多く含まれていた時代。ストルバイトが主流。
1990年代 減少傾向 徐々に増加 低Mg・酸性尿フードが普及し、ストルバイトは減ったがCaOxが増え始める。
2000年代 49% 41% ドライフード依存+酸性化の副作用で、CaOxがストルバイトを追い抜く。
現在 拮抗(ほぼ半々) 拮抗(ほぼ半々) 食事内容・寿命延長・生活環境の影響が複合。いたちごっこの構図。

ペットフード業界が作った「結石ビジネスサイクル」

もともと猫の体は「高水分・高タンパク・低炭水化物」のシンプルな獲物モデルで設計されているのに、ペットフード企業は“管理しやすさ”と“保存性”を優先して 乾燥+加工+添加 に振り切った。

その結果、

  • ドライ依存で常に濃縮尿

  • ストルバイト問題が起きる → 低Mg・酸性化フード投入

  • それが副作用でCaOx(シュウ酸カルシウム結石)を爆増

  • また療法食を売る

…という完全な ビジネスサイクル に猫が巻き込まれてしまった。

野生猫198匹の研究が示す通り、普通に獲物(=自然食)を食べていれば、そもそも結石はここまで問題にならない


結局のところ、「結石シフト」は猫のせいじゃなくて、人間と業界の“おかしな工夫”が招いた結果だ。

野生猫198匹の研究(Cottamら, 2002)

そんな中で注目されるのが、2002年に Journal of Nutrition に発表された「198匹の野生猫の尿組成研究」だ。

  • 調査対象:オーストラリアの野生猫 198匹

  • 分析内容:尿サンプルの化学組成(pH、ミネラル濃度など)

  • 結果:198匹すべてに尿路結石は確認されなかった

彼らの食事は主に小型哺乳動物(ネズミ、ウサギ、オポッサムなど)。これらの獲物は水分を65〜80%含み、自然な「高水分食」となっている。

この研究が示すこと

この結果は、現代の栄養学研究とも合致する。

  • 高水分食はFLUTDの再発率を半分以下に減らすと報告されている。

  • 尿を薄めること自体が最大の予防策であり、水分は「最も重要な栄養素」と位置づけられている。

  • 逆に、乾燥したドライフード中心の食事は、慢性的な尿の濃縮を招き、結石や膀胱炎のリスクを高める。

つまり、野生猫の「尿に結石が見られなかった」という観察結果は、猫本来の食性が尿路健康を守ることを裏づけている。

注意すべきポイント

ただし、この研究をそのまま「自然食=結石ゼロ」と解釈するのはどうかなと。

  • 検査方法によっては微小結石を見逃していた可能性がある

  • 結石を持つ個体は生き残れず、サンプルに含まれなかった可能性がある(自然淘汰バイアス)

  • 遺伝的背景や生息環境の違いも影響する

それでも、この研究は「乾燥食ではなく、高水分の自然食を中心にした方が健康維持につながる」という方向性を明確に示している。

「198匹の野生猫の尿組成研究」が拡散されない理由

「198匹の野生猫の尿組成研究」、猫栄養や尿路疾患に関してすごくインパクトのある結果なのに、ほとんど広まっていない。

研究資金のバイアス

  • この研究はニュージーランド・オーストラリアの研究チームが主体で、フード企業のスポンサー色が薄い

  • 対して現在広まっている「RSS研究」や「ストルバイト溶解食試験」は、ヒルズやロイカナなど大手が資金を出していて、学会や教科書、獣医教育を通じて拡散されやすい。

  • 業界のプロモーション力の差で、野生猫研究は“学会で一部の人が知っている”程度で止まってしまった。

臨床現場に直結しにくい

  • 論文は「尿組成の基準値」として発表されていて、治療や製品開発の即効性はない。

  • 獣医師や学生が読む臨床向けのテキストにはほとんど引用されず、「飼い主向け情報」にも出てこない。

  • 一方、企業研究は「このフードで溶けました!」とすぐ臨床応用できる形で出されるので広まる。

都合が悪い業界構造

  • このデータは**「自然食・高水分食なら結石は激減する」**という強烈な示唆を含んでいる。

  • でも、それを前面に出すと「じゃあドライフードいらないの?」という流れになりかねない。

  • 企業や業界側からすると「広まらない方が都合がいい」データとも言える。

だからこそ、独立した飼い主や研究者が拾い上げて広めない限り、表に出てこない

飼い主にとって

学術的に淡々と追っても:

  • ストルバイト過多 → 低Mg・酸性フード投入 → CaOx急増

  • ドライ依存 → 慢性的な濃縮尿

といった因果関係はもうデータで示されてるし、隠しようがない。それを「批判」ととるか「歴史の記録」ととるかは、読み手次第。

結石のシフトは、猫の体質が急に変わったからではなく、人間が作ったフード設計の変遷に強く影響を受けている。

できることから愛猫を守っていくなら

  • ウェットフードや手作り食を組み合わせて水分を食事から摂る工夫

  • 常に新鮮な水を用意するだけでなく、飲水の好み(水流、器の素材など)を探る

  • すでに結石や膀胱炎の既往がある猫には、pHや尿比重を定期的にモニターし、早期に変化を察知する

「野生猫には結石がなかった」という事実を鵜呑みにするのではなく、そこから「猫本来の食性をどう家庭猫に近づけるか」を考えていきたい。

参考文献

  • Cottam YH, Caley P, Wamberg S, Hendriks WH. Feline reference values for urine composition. J Nutr. 2002;132(6 Suppl 2):1754S-1757S.

  • Lekcharoensuk C, Osborne CA, Lulich JP. Epidemiologic study of risk factors for lower urinary tract diseases in cats. J Am Vet Med Assoc. 2001.

  • Stevenson AE, Hynds WK, Markwell PJ. Effect of dietary moisture and sodium content on urine composition in healthy cats. J Small Anim Pract. 2003.

  • Markwell PJ, Buffington CA, et al. Clinical evaluation of commercial urinary diets for the management of idiopathic cystitis in cats. J Feline Med Surg. 1999.

  • NRC. Nutrient Requirements of Dogs and Cats. National Academies Press, 2006.

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