ハカセ×MIA人間と猫のカラダから読み解く対談シリーズ Vol.7
自然が設計した完璧な栄養バランス──鉄と亜鉛が教えてくれること
生物学的利用能──バイオアベイラビリティ
鉄と亜鉛の競合──教科書の話と現実の違い
ハカセ そうですね。でも、その記述のほとんどは人工添加ミネラル、つまり非ヘム鉄と無機亜鉛を同時摂取した場合の研究データに基づいているんです。
自然界では、同じ肉の中にヘム鉄と亜鉛が共存していても、ちゃんと両方吸収できる設計になっているんですよ。
自然の美しい設計──別々の入り口
ハカセ 腸の細胞には、栄養素を取り込むための「ドア」がたくさんあります。そして、自然な形の栄養素は、それぞれ違うドアから入るようになっているんです。
ヘム鉄、つまり肉やレバーに含まれる自然な鉄は、HCP1(ヘム輸送タンパク質1)という専用のドアから入ります。
一方、亜鉛はZIP4という別のドアから入るんです。
つまり、「同じお皿にあっても、吸収の順番が喧嘩しない」設計になっているんですよ。
人工栄養の問題点──同じドアでの渋滞
ハカセ まさにその通り。しかも、もっと厄介な問題があります。鉄が過剰に入ってくると、体はメタロチオネイン(MT)というタンパク質を作って、亜鉛を封じ込めてしまうんです。
これによって、せっかく吸収された亜鉛が使えなくなってしまう。だから「鉄強化フード」を食べている猫ほど、亜鉛欠乏による皮膚炎や食欲低下が出やすいんです。
競合の方向性──鉄の影響が強い
ハカセ これも重要なポイントです。
鉄過剰 → 亜鉛吸収を強く抑制します。特に非ヘム鉄サプリや添加鉄で顕著です。
一方、亜鉛過剰 → 鉄吸収を抑制しますが、こちらの影響はやや弱いんです。
つまり、鉄の方が亜鉛に対して強い干渉を起こすということです。
ハカセ その通りです。フードの表示の限界と現状の問題点として:
成分表には「鉄 ○○mg」としか書かれていない
ヘム鉄なのか非ヘム鉄なのか区別がない
硫酸鉄、酸化鉄、キレート鉄など添加形態も不明
亜鉛も同様に「亜鉛 ○○mg」だけ
つまり、数値上は鉄も亜鉛も十分に見えても、実際には:
非ヘム鉄過剰で亜鉛の吸収が阻害されている
メタロチオネインが誘導されて亜鉛が使えない
結果として亜鉛欠乏症状(皮膚炎・食欲不振)が出る
消費者には判断のしようがないでも、これはあくまで「人工添加の非ヘム鉄」の話です。
実は肉やレバーなどの自然なヘム鉄は吸収経路が別(HCP1経路)なので、亜鉛への干渉はほとんどありません。
自然食材の優位性
ハカセ はい、自然な食材には、こんな素晴らしい特徴があります:
吸収経路の分離:ヘム鉄はHCP1、亜鉛はZIP4と、別々のルートで吸収される
適切な比率:肉やレバーには、生物が必要とするバランスで鉄と亜鉛が含まれている
補助因子の存在:ビタミンCやアミノ酸など、吸収を助ける成分が自然に含まれている
過剰摂取のリスクが低い:自然な食材からは、極端な過剰摂取が起こりにくい
人工栄養がもたらす問題
ハカセ 主な問題点は4つあります。
第一に吸収経路の競合です。無機鉄と無機亜鉛が同じDMT1を奪い合うため、どちらか一方しか十分に吸収できません。
第二にメタロチオネインの誘導です。過剰な鉄が入ると、体が防御反応として亜鉛を封じ込めるタンパク質を作ってしまいます。
第三にバランスの崩壊です。人工的に添加された栄養素は、自然界にはない極端な比率になりがちです。例えば、鉄だけを大量に添加したフードなど。
第四に補助因子の欠如です。自然な食材には吸収を助ける成分が一緒に含まれていますが、人工栄養にはそれがありません。
実際の影響──猫での症例
ハカセ はい、臨床的によく見られます。鉄を過剰に添加したフードを食べている猫に、こんな症状が出ることがあります:
皮膚炎:亜鉛欠乏による皮膚のバリア機能低下
食欲低下:亜鉛は味覚に重要なので、欠乏すると食欲が落ちます
被毛の質の悪化:亜鉛はタンパク質合成に必須で、欠乏すると毛艶が悪くなります
免疫力の低下:亜鉛は免疫細胞の機能に重要です
創傷治癒の遅延:亜鉛欠乏で傷の治りが遅くなります
自然食材を選ぶ意義
ハカセ 答えはシンプルです。できるだけ自然な食材から栄養を摂ることです。
肉やレバーを基本に:ヘム鉄と自然な亜鉛が理想的なバランスで含まれています
多様な食材を組み合わせる:一つの食材だけに頼らず、複数の動物性タンパク源をローテーション
過度な添加物を避ける:「鉄強化」「ミネラル強化」を謳うフードには注意が必要
新鮮な食材を優先:加工度が低い食材ほど、自然な栄養バランスが保たれています
ハカセ 基本的には同じです。ただし、人間は雑食なので植物性食品からの栄養摂取も重要です。特に女性や成長期の子どもで鉄が不足しやすい場合は、肉やレバーなどのヘム鉄を積極的に摂ることをお勧めします。
サプリメントに頼る前に、まず食事から摂ることを考えてほしいですね。
他のミネラルでも同じ原理
ハカセ はい、他のミネラルでも同様の競合が起こります。
カルシウムとマグネシウム:過剰なカルシウムがマグネシウムの吸収を阻害
銅と亜鉛:過剰な亜鉛が銅の吸収を抑制
鉄とマンガン:同じDMT1を使うため競合
カルシウムと鉄:カルシウムが非ヘム鉄の吸収を阻害
でも、これらも自然な食材から摂る分には、バランスが取れているので大きな問題にはなりません。問題になるのは、人工的に添加された場合です。
生物学的利用能を高めるコツ
ハカセ いくつかのポイントがあります:
自然な形で摂る:ヘム鉄、キレート化されたミネラルなど、体が認識しやすい形
補助因子と一緒に:ビタミンCは鉄の吸収を助け、クエン酸はミネラル全般の吸収を促進
適切なタイミング:空腹時の方が吸収されやすいミネラルもあります
バランスを保つ:一つの栄養素だけを大量に摂らない
加工を最小限に:新鮮な食材ほど、栄養素が自然な形で保たれています
まとめ
ハカセ こうまとめられますね:
自然の美しい設計
ヘム鉄と亜鉛は別々の吸収経路(HCP1とZIP4)
同じ食材に共存していても競合しない
自然な肉食動物は栄養バランスを保てる設計
人工栄養の問題点
非ヘム鉄と無機亜鉛は同じDMT1で競合
鉄過剰が亜鉛吸収を強く抑制
メタロチオネインが亜鉛を封じ込める
鉄強化フードで亜鉛欠乏症状が出やすい
競合の方向性
鉄過剰 → 亜鉛吸収を強く抑制(特に非ヘム鉄)
亜鉛過剰 → 鉄吸収を抑制(影響はやや弱い)
自然なヘム鉄 → 亜鉛への干渉はほとんどない
実践のポイント
肉やレバーなど自然な食材を基本に
多様な食材をローテーション
過度な添加物を避ける
サプリより食事優先
ハカセ その通りです。私たちは科学技術でいろいろなものを作り出せますが、自然が何億年もかけて作り上げた精巧な仕組みには、まだまだ及びません。
だから、栄養摂取の基本は「自然な食材から」。これが、健康を保つための最も確実な方法なんです。次回は、具体的な食材選びと調理法について、実践的なお話をしましょう。
