ハカセ×MIA 人間と猫のカラダから読み解く対談シリーズVol.8自然の叡智シリーズ 1
なぜ「自然」と「人工」で違うのか?──吸収の仕組みから理解する
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同じ「鉄」なのに、なぜ違う?
ハカセ 実は、まったく違うんです。例を出しましょう。
レバー100gに含まれる鉄:約13mg
鉄サプリメント(硫酸鉄)の鉄:50〜100mg
数字だけ見ると、サプリの方が「効率的」に見えますよね?でも、体はそう判断しないんです。
腸は「形」を見ている
ハカセ 腸の細胞には、栄養素ごとに専用の「入り口(トランスポーター)」があるんです。まるでカギとカギ穴のような関係なんですよ。
レバーの鉄(ヘム鉄)の場合
– タンパク質に包まれた形で腸に届く
– *HCPという専用の入り口がある
– この入り口は「タンパク質に包まれた鉄」にだけ反応する
サプリの鉄(無機鉄)の場合
– 裸の鉄イオン(Fe²⁺やFe³⁺)として腸に届く
– DMT1という別の入り口を使う
– この入り口は他のミネラルとも共用される
ハカセ そうなんです。これが自然の驚くべき設計なんです。
なぜ専用の入り口があるのか?それは、数億年の進化の中で、動物が「自然な食材」を食べ続けてきたからです。
レバーや肉に含まれるヘム鉄は、いつも「タンパク質に包まれた形」で体に入ってきました。だから体は、その形を認識する専用の入り口を作ったんです。
ハカセ まさにその通りです。これが、自然の叡智の第一歩です。
体は、自然界に存在する形の栄養素を吸収するように、数億年かけて最適化されてきた。
人工的に作られた高濃度の無機鉄は、進化の歴史の中では「想定外」なんですよ。
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「入る」と「使える」は別物
ハカセ はい、吸収はされます。でもここに大きな落とし穴があるんです。
栄養学では、「吸収率」と「生体利用率」という2つの概念があります。
吸収率
– 腸から血液に「入る」割合
– 人工鉄も条件によっては高い吸収率を示す
生体利用率(バイオアベイラビリティ)
– 吸収された後、実際に「体が使える」割合
– これが自然と人工で大きく違う!
ハカセ そうなんです。例を挙げましょう。
自然な鉄(レバーのヘム鉄)
↓
ヘム鉄が腸に届く(タンパク質に包まれている)
↓
HCP1という専用入り口から吸収
↓
血液中でトランスフェリンというタンパク質に受け渡される
↓
必要な場所(骨髄など)へスムーズに運ばれる
↓
ヘモグロビンの材料として「すぐに使える」
生体利用率:約15〜35%**(個体差あり)
人工鉄(硫酸鉄など)
↓
無機鉄が腸に届く(高濃度で一気に)
↓
DMT1から吸収(他のミネラルと競合)
↓
血液中に入るが、遊離鉄イオンのまま
↓
トランスフェリンに結合しきれない分は…
– 活性酸素を発生させる
– 肝臓や膵臓に沈着する
– 腸粘膜を傷つける
↓
使える形になるまでに時間とエネルギーが必要
生体利用率:数字は高く見えても、実際に「安全に使える」割合は不明
ハカセ その通りです。そしてここに、自然の食材の素晴らしさがあるんです。
自然な栄養素は、吸収された後もスムーズに体内で使われる形になっている。
これは何百万年もかけて、食材と体が「共進化」してきた結果なんですよ。
体のセンサーは「速度」を感知する
ハカセ そう、体にはヘプシジンという「鉄センサー」があります。このセンサーは、「全身の鉄が十分か?」を常に監視していて、十分なら吸収を抑えるんです。でも、このセンサーがうまく働くかどうかは、栄養素の「供給速度」によって決まるんです。
ハカセ はい、これがとても重要なポイントです。
自然な食材の場合
↓
口で噛む
↓
胃で消化(1〜2時間)
↓
小腸で少しずつ分解・吸収(2〜4時間)
↓
ヘム鉄がゆっくり、少量ずつ血液に入る
センサーの反応
– ゆっくり供給されるので、センサーが追いつく
– 「ちょっと待って、もう十分だよ」と調整できる
– 過剰になりにくい
人工サプリの場合
↓
胃で溶ける(30分〜1時間)
↓
小腸に高濃度の無機鉄が一気に届く
↓
大量の鉄イオンが同時に吸収を試みる
センサーの反応
– 供給が速すぎて、センサーが追いつかない
– 「抑制」が間に合わず、吸収されてしまう
– 一時的に過剰な鉄が体内に入る
ハカセ 正確には「すり抜ける」というより、「センサーが反応する前に、一時的に大量供給される」ということです。
これは「速さ」と「濃度」の問題なんですよ。
自然な食材は、まるで「点滴」のように、ゆっくり少量ずつ。
人工サプリは、まるで「急速注入」のように、一気に高濃度で。
体のセンサーは、「点滴」には対応できても、「急速注入」には追いつかないんです。
自然には「ブレーキ」が組み込まれている
ハカセ まさに!これが自然の最も美しい設計の一つなんです。
自然な食材の「安全装置」
1. タンパク質の壁
– ヘム鉄はタンパク質に包まれている
– すぐには吸収されない
– 消化に時間がかかる=ゆっくり供給2. 濃度の限界
– 自然な食材の栄養素濃度には上限がある
– レバー100gに含まれる鉄:約13mg
– 物理的に大量摂取できない(お腹いっぱいになる)3. 多様な成分の共存
– 食材には鉄以外の成分も含まれる
– 食物繊維、水分、他の栄養素
– これらが吸収速度を自然に調整する4. 満腹感
– 自然な食材を食べると満腹になる
– 「もう食べられない」という生理的ブレーキ
ハカセ その通りです。これが、数億年の進化が生み出した叡智なんです。
対して人工サプリには、これらの「ブレーキ」がありません:
– 小さなカプセル1粒に高濃度
– タンパク質の壁がない
– 満腹感もない
– 水と一緒にすぐ飲める
だから「飲みすぎ」「過剰摂取」が起こりやすいんです。
形態が違えば、経路も違う
ハカセ 鋭い!まさにその通りです。これが「吸収経路の違い」なんですよ。
鉄を例に比較してみましょう
ヘム鉄(自然な肉・レバー由来)の経路
↓
HCP1(専用ゲート)
↓
細胞内でヘムオキシゲナーゼが処理
↓
Fe²⁺として血液へ
↓
トランスフェリンがキャッチ
↓
安全に全身へ運搬
特徴:
– 専用経路だから混雑しない
– 他のミネラル(亜鉛、銅など)と競合しない
– タンパク質に守られているので酸化しにくい
非ヘム鉄(無機鉄・サプリ)の経路
↓
DMT1(共用ゲート)← 亜鉛、銅、マンガンも同じ入り口を使う
↓
Fe²⁺として細胞内へ
↓
フェリチン(貯蔵タンパク)に一時保管
↓
必要に応じて血液へ
↓
トランスフェリンに結合(しきれない分は遊離鉄に)
特徴:
– 共用ゲートなので、他のミネラルと「渋滞」が起こる
– 高濃度で届くと、他のミネラルの吸収を邪魔する
– 遊離鉄イオンは活性酸素を生成する
ハカセ 素晴らしい例えです!まさにその通り。
そして、この「専用道路」は、長い進化の歴史の中で作られたものです。
肉食動物である猫の祖先は、何百万年も前から肉やレバーを食べてきました。その間に、体は「ヘム鉄を効率よく吸収する専用ルート」を発達させたんです。
でも、「高濃度の無機鉄サプリメント」は、進化の歴史にはありません。だから専用ルートがないんですよ。
生体利用率の真実
ハカセ 良い質問です。数字で見てみましょう。
鉄の生体利用率(人間のデータですが、猫も類似)
| 鉄の種類 | 吸収率 | 実際に使える率 |
| ヘム鉄(肉・レバー)| 15〜35% | 吸収されたほぼ全てが使える |
| *非ヘム鉄(植物性)| 2〜20% | 吸収されても一部は使えない |
| 硫酸鉄(サプリ) | 10〜30% | 吸収されても安全に使える保証なし |
| キレート鉄(高級サプリ)| 20〜40% | やや改善されるが、自然には及ばない |
注目すべきポイント:
吸収率だけ見ると、人工鉄も悪くないように見えます。でも問題は、「吸収された後、どうなるか?」なんです。
自然なヘム鉄の場合:
↓
そのほぼ全て(28〜30%)が、
ヘモグロビンや酵素の材料として「すぐに使える」
↓
余剰分は安全に貯蔵される
↓
酸化ストレス:ほぼなし
人工の無機鉄の場合:
↓
しかし、一度に大量に入るため…
↓
トランスフェリン(運搬タンパク)が飽和する
↓
溢れた鉄が「遊離鉄」として血中に
↓
活性酸素を発生させる
↓
肝臓や膵臓に沈着するリスク
↓
実際に「安全に使える」のは一部だけ
つまり、数字の上での吸収率と、実際の「安全で有効な利用」は別物なんです。
自然の栄養素には「文脈」がある
ハカセ MIAさん、素晴らしい気づきです!まさにそこが、次回のテーマでもあるんですよ。
自然な食材の栄養素は、決して「単独」では存在しません。
レバーの鉄を例にすると:
レバー100gには、鉄だけでなく…
– タンパク質:鉄を包み、保護する
– ビタミンB12:赤血球の生成を助ける
– 葉酸:同じく造血に必要
– ビタミンA:免疫機能に関与
– 銅:鉄の吸収を助ける
– 亜鉛:代謝に必要
– その他、微量元素やアミノ酸
これらが「チーム」として一緒に働くんです。
ハカセ そうなんです。人工サプリの「鉄だけ」とは、まったく違います。
自然な食材には「文脈(コンテクスト)」があるんです。
鉄は、タンパク質という「仲間」と一緒に来る。
ビタミンB12という「相棒」と一緒に働く。
銅という「サポーター」に助けられる。
このような「チームワーク」こそが、自然の叡智の核心なんです。
次回Vol.2では、この「仲間」たちの関係をもっと深く掘り下げますね。
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まとめ
ハカセ 今日学んだことを整理しましょう。
なぜ「自然」と「人工」で違うのか?
1. 形態の違い
– 自然:タンパク質に包まれた、複合体として存在
– 人工:裸のイオンや合成分子として存在
– → 体は「自然な形」を認識する専用システムを持っている2. 吸収経路の違い
– 自然:専用の入り口(HCP1など)がある
– 人工:共用の入り口を使う→他の栄養素と競合
– → 進化が作り上げた「専用道路」3. 供給速度の違い
– 自然:ゆっくり、少量ずつ供給される
– 人工:一気に高濃度で供給される
– → 体のセンサーが機能するかどうかの違い4. 生体利用率の違い
– 自然:吸収された後、スムーズに使える
– 人工:吸収されても、安全に使えるとは限らない
– → 「入る」と「使える」は別物5. 安全装置の有無
– 自然:タンパク質の壁、濃度の限界、満腹感などのブレーキあり
– 人工:ブレーキなし→過剰摂取のリスク
– → 自然には「食べ過ぎ防止」が組み込まれている6. 文脈の有無
– 自然:栄養素が「チーム」として存在
– 人工:単独で存在
– → 自然には「仲間」がいる(次回のテーマ)
ハカセ そうなんですよ、知ると知るほど感銘をうけますよ。
自然は、数億年かけて「完璧な栄養供給システム」を作り上げてきた。私たち人間が、数十年の科学で作った人工物が、その完璧さに敵うはずがないんです。もちろん、人工物が「悪」というわけではありません。緊急時や特殊な状況では有用です。でも、日常的な栄養摂取においては、「自然な食材に勝るものはない」これが、科学が教えてくれる真実なんです。
あなたにできること
ハカセ 今日学んだことを踏まえて、実践できることがあります:
フード選びのポイント
1. 原材料表示の最初に「肉」「魚」など自然な食材が来ているものを選ぶ
2. 「○○硫酸」「○○酸化物」などの人工添加物が少ないものを選ぶ
3. 「高濃度配合!」「強化!」を謳うものは慎重に
日々の食事
1. 総合栄養食だけに頼らず、新鮮な肉や魚をトッピング
2. 多様な動物性タンパク源をローテーション
3. 自然な食材から栄養を摂ることを基本に
サプリメントについて
1. 「足りないから足す」より「自然な食材で満たす」を優先
2. 特に鉄サプリは安易に使わない
観察と記録
1. 猫の被毛、皮膚、便の状態を観察
2. フードと体調の関連を記録
3. 定期的な健康診断で「傾向」を追う
ハカセ その通りです。そして、「知る」ことが第一歩なんです。
今日学んだように、自然と人工では吸収の仕組みから違います。この知識があれば、フードのパッケージを見る目が変わるはずですよ。
次回予告
ハカセ 次回Vol.2では、今日少し触れた「チームワーク」の話を深掘りします。
「自然の栄養素には『仲間』がいる──単独では語れない食の神秘」
レバーの鉄は、なぜこんなに吸収されやすいのか?
それは、鉄だけで働いているわけじゃないからなんです。
銅、ビタミンB群、タンパク質…これらが「チーム」として働く様子を見ると、自然の設計の完璧さに、もっと驚くはずですよ。
ハカセ それでは、また次回お会いしましょう。
「知れば知るほど、自然がすごい!」
この感動を、ぜひ次回も一緒に味わいましょう。
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シリーズを通して伝えたいこと
このシリーズは、人工物を「批判」するためのものではありません。
自然の食材が持つ「叡智」を知り、その素晴らしさに気づくためのものです。
科学が進めば進むほど、私たちは自然の完璧さに驚かされます。
そして、その自然を家族や愛猫に届けることこそが、私たちにできる最善なのでは?
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次回予告:Vol.2「自然の栄養素には『仲間』がいる──単独では語れない食の神秘」お楽しみに!
