人間と猫のカラダから読み解く対談シリーズ Vol.6
腸壁バリアを守る──炭水化物との正しい付き合い方
粘膜バリアの仕組み
炭水化物が粘膜バリアに与える影響
ハカセ 実は、プラスに働く場合とマイナスに働く場合があります。
プラスに働く場合は、水溶性食物繊維が入っている時ですね。オートミール、オクラ、寒天、なめこ、山芋、納豆、サイリウムなどは水を抱え込んでゲル状になり、粘液のように「便と腸壁の間のクッション」として働きます。
さらに、腸内細菌による発酵で短鎖脂肪酸、特に酪酸が産生されると、粘液分泌が促進されて、上皮細胞のエネルギー源にもなるんです。結果として粘膜バリアを厚く・強く保つ方向に働きます。
ハカセ この菌は実は二面性があって興味深いんです。健康な腸内環境では粘液分泌を促進してゴブレット細胞を増やし、粘液層を厚くする有益な働きをします。
しかし、低繊維・高糖質食や腸内細菌叢が乱れた環境では、粘液を過剰に分解してしまい、粘液層が薄くなる可能性があるんです。つまり、周りの環境次第で善玉にも悪玉にもなり得る菌なんですよ。
ハカセ はい、主に3つあります。
第一に発酵・ガス・酸性化です。大量の未消化炭水化物、特に小腸で吸収されにくいオリゴ糖やFODMAPなどは、大腸で腸内細菌に発酵されます。短鎖脂肪酸は腸に有益ですが、ガスや酸が過剰になると腸内環境が酸性に傾き、粘液層にストレスがかかることがあります。
第二に炎症との関係です。高糖質食と高脂肪食の組み合わせでは、腸内細菌叢が乱れて内毒素(エンドトキシン)が増え、腸のタイトジャンクション、つまり細胞間の結合を弱める可能性があります。これが「リーキーガット」様の状態を起こすリスクになるんです。ただしこれは「腸壁が剝がれる」ではなく、粘膜バリアが緩んで透過性が上がるという現象です。
第三に粘液の質的変化ですね。先ほど話した通り、腸内環境が悪化すると、粘液を栄養源にする細菌が過剰に活動して粘液層を薄くする可能性があります。
腸壁バリアを脅かす要因
ハカセ たくさんありますよ。大きく分けると4つのカテゴリーに整理できます。
第一に食事由来の要因です。
– 高脂肪食、特にオメガ6系の多価不飽和脂肪酸が過剰だと、脂質の代謝産物が炎症を促し、腸のタイトジャンクションを緩めやすい
– 精製炭水化物・砂糖の過剰摂取は、先ほど話した通り
– グルテンやグリアジン(小麦タンパク)は、ヒトではゾヌリンを介して腸透過性を高める報告があります。動物での研究はまだ限られていますが、同様のメカニズムが働く可能性が示唆されています
第二に微生物・毒素由来の要因です。
– 病原菌のエンドトキシン(LPS)は、バリアを弱め炎症を起こします
– カンジダなど真菌の過剰増殖も、炎症を誘発して透過性を上げます
– 寄生虫感染は直接的に粘膜を傷つけたり、炎症を持続させます
第三に体内環境・生理的要因です。
– ストレスによるコルチゾール上昇は、腸の血流低下や免疫バランスの乱れで粘液分泌が減ります
– 慢性炎症・自己免疫反応では、炎症性サイトカインがタイトジャンクションを壊します
– 栄養不足、特に亜鉛、ビタミンA、ビタミンD、グルタミンの不足は粘膜修復を遅らせます
第四に薬剤の影響です。
– 抗生物質の長期使用は善玉菌を減らし、バリアを維持する短鎖脂肪酸の産生を減少させます
– NSAIDs(非ステロイド抗炎症薬)は腸管の粘膜障害を起こすことが知られています
– ステロイドの長期使用は、炎症を抑える一方で修復力も抑え込み、バリアを弱める場合があります
腸壁バリアを守るもの
ハカセ はい、守る要素もしっかり押さえておきましょう。
水溶性食物繊維と短鎖脂肪酸は粘液のクッション役として働き、酪酸が粘膜細胞のエネルギーになります。
ビタミンA・D・亜鉛・グルタミンは粘膜の修復と維持に不可欠です。特にビタミンAは粘液分泌に、亜鉛は細胞分裂に、グルタミンは腸上皮細胞のエネルギー源として重要です。
善玉菌(プロバイオティクス)は腸内環境を整え、病原菌の侵入を防ぎます。
抗酸化物質は炎症を抑え、粘膜の酸化ストレスを軽減します。
猫の場合は?
ハカセ 猫は人間とは少し違う特性があるので、それを踏まえて考える必要がありますね。
まず、猫は肉食動物として進化したため、炭水化物を大量に処理する能力が限定的なんです。アミラーゼなどの消化酵素が雑食動物より少ないため、大量に与えると未消化分が大腸に流れ込みやすく、これが腸内環境の変化、つまり発酵・ガス・酸性化につながる可能性があります。
でも、例えば米粉を数グラムとか、炊飯米を10グラム程度というレベルは、むしろ水分保持や便のバッファとして働いて、粘膜を守る側に寄ると考えられます。デンプンによる水分保持で便の状態を整えるイメージです。
しかし、猫がこれまでに食べてきていないような大量の炭水化物が問題なんですね。未消化分が大腸に流れ込む・・・怖いですね。その他、猫で特に気をつけるべきリスクは何でしょう?
ハカセ はい、何万年と肉食で進化してきた猫が、この50年ほどで生理代謝が都合よく変化するわけがないんです。
その他に気を付けるべきリスクですが猫に絞ると、特に注意したいのは以下の点です:
PUFA(多価不飽和脂肪酸)の過剰、つまり魚油や植物油の入れすぎですね。オメガ6系が多いと炎症を起こしやすくなります。
抗生物質歴がある猫は腸内細菌叢が乱れている可能性が高いです。
ストレスも大きな要因です。多頭飼育環境や頻繁な環境変化は腸バリアを弱めます。
亜鉛不足も見逃せません。猫は亜鉛の要求量が高く、不足すると粘膜の修復力が落ちます。
ハカセ 猫の防御戦略はこうなります:
レバー由来のビタミンAは粘液分泌に必須です。猫はβカロテンをビタミンAに変換できないので、動物性ビタミンAが重要なんです。
オクラや寒天などのトロミ素材は、水分を保持して粘膜のクッションになります。猫は砂漠起源の動物で、食事から水分を摂る性質が強いため、こうした水分保持食材は腸粘膜にとって理想的なんですよ。
少量の米粉はバッファとして。例えば数グラム程度は、便の状態を整えて腸壁への刺激を和らげます。
発酵食品、納豆粉やヨーグルトを少量与えることで善玉菌を補給できます。
グリシン・ゼラチンなどの粘膜アミノ酸も、コラーゲン由来の栄養として粘膜修復をサポートします。ボーンブロスなどは非常に良いとされていますね。
まとめ
ハカセ こうまとめられますね:
炭水化物と腸壁バリア
– 炭水化物は物理的に腸壁を剥がすことはない
– 水溶性食物繊維は粘膜バリアを守る(プラス作用)
– 精製炭水化物の過剰は腸内環境を乱し、粘液層を薄くする可能性(マイナス作用)
腸壁バリアを脅かす4つの要因
– 食事要因:高脂肪(特にω6過剰)、精製糖質、グルテン
– 微生物要因:エンドトキシン、真菌、寄生虫
– 体内要因:ストレス、栄養不足(Zn・VitA・VitD・グルタミン)
– 薬剤要因:抗生物質、NSAIDs、ステロイド
腸壁バリアを守る要素
– 水溶性食物繊維・短鎖脂肪酸
– ビタミンA・D・亜鉛・グルタミン
– 善玉菌(プロバイオティクス)
– 抗酸化物質
猫の場合の特別な配慮
– リスク:PUFA過剰、抗生物質歴、ストレス、亜鉛不足
– 防御:レバー(VitA)、トロミ素材、少量の米粉バッファ、発酵食品、粘膜アミノ酸
– 猫は肉食動物として炭水化物処理能力が限定的だが、適量は粘膜保護に有益
