乳酸菌ビジネスにうんざりしている

「腸内環境を整えましょう」「善玉菌を増やしましょう」──ペットフード売り場やオンラインショップを覗けば、そこら中に乳酸菌サプリメントが並んでいる。しかも、人間用と比べて3倍から5倍の価格で。

正直に言おう。私はこの「乳酸菌ビジネス」にうんざりしている。

本末転倒:サプリより先に食事を見直せ

腸内環境について語るなら、まず基本に立ち返るべきだ。腸内細菌が何を餌にして生きているのか、考えたことはあるだろうか。

答えは簡単だ。あなたの猫や犬が毎日食べているフードである。

低品質な穀物まみれのキャットフード、加工度の高いドッグフードを与えておいて、その上に乳酸菌サプリメントを振りかける。これがどれほど滑稽な行為か、立ち止まって考えてほしい。

腸内環境の基盤は「何を食べているか」だ。適切な動物性タンパク質、必須脂肪酸、そして適度な食物繊維。これらが揃って初めて、腸内細菌叢は健全に機能する。

サプリメントは文字通り「補助」であって、根本的な「解決策」では決してない。

土台が腐っている家にペンキを塗っているようなものだ。

「善玉菌を増やせばOK」という雑な宗教

もう一つ重大な問題がある。

腸の中には、何百種類もの細菌がいる。しかもその細菌たちは、単独で働いているわけじゃない。

複雑に共存して、牽制して、支え合って、絶妙なバランスで生態系を作っている。

これが腸内細菌叢の多様性

なのに市販の乳酸菌サプリはどうか。

「○○株配合!」
「この菌がすごい!」

1~2種類の菌を大量投入。

これ、農業で言えば完全にモノカルチャー(単一栽培)。

一種類しか増やさないと、土は痩せる。病害虫に弱くなる。そして生態系は壊れる。

腸でも、同じことが起きうる。

特定の菌を”善玉だから”と過剰に押し込めば、他の有益菌の居場所を奪うかもしれない。

腸内環境を整えるつもりで、腸内の生態系を破壊していたら、本末転倒にも程がある。

ペット用になると3~5倍の謎価格

そして、価格の話だ。

人間用の乳酸菌サプリメントと、ペット用の乳酸菌サプリメント。中身の菌株が同じでも、パッケージに「猫用」「犬用」と書いてあるだけで、価格は3倍から5倍に跳ね上がる。

CFU(コロニー形成単位、つまり菌の数)あたりの単価を計算してみれば、その差は歴然だ。同じ菌を、同じ量だけ摂取するのに、なぜペットだけがこんなに高い金額を払わなければならないのか。

答えは明白だ。ペット市場は規制が緩く、消費者の知識も限定的だからだ。

「愛する我が子のため」という飼い主の心理に付け込んで、適正価格の何倍もの値段をつけられる。

この国では、“腸内環境”という単語を貼れば何でも売れる

さらに言えば、その科学的根拠はどうなのか。猫や犬に特定の乳酸菌サプリメントが必要だというエビデンスは、驚くほど薄い。AAFCOの栄養基準にも、NRCの推奨事項にも、乳酸菌サプリメントの継続的な摂取を推奨する記述はない。

医療と物販の境界が溶ける

もう一つ、静かに怖いことがある。

病院は”買い物をする場所”じゃない。そこを売場化すると、飼い主の側は断りづらい。

メーカーが売るのはまだ「商売だから」で済むが、獣医師が”治療者”の顔のまま乳酸菌サプリ売り始めると、空気が変わる。

獣医師が悪いんじゃない。獣医療が ”サプリを売らないと回らない構造” になったのが、静かに怖い。

病院で買えるサプリが「正しい」と錯覚し始めた時点で、飼い主側ももう術中だ。

「治療」と「物販」が混ざると、断れない空気が生まれる。

その空気が一番高くつく。

「安全だから」は本当か──乳酸菌サプリの事故リスク

そして、ここが最も語られていない問題だ。

「乳酸菌は安全」「善玉菌だから害はない」──多くの飼い主がそう信じている。だが、本当にそうだろうか。

免疫不全個体での菌血症・敗血症リスク

FIV陽性、FeLV陽性の猫。化学療法中の犬。長期ステロイド投与を受けている個体。

こうした免疫機能が低下した動物に、生きた菌を大量投与することの意味を考えたことはあるだろうか。

通常なら腸内に留まるはずの菌が、免疫の監視が緩んだ隙に血流へ侵入する。これが菌血症、重篤な場合は敗血症を引き起こす。

「善玉菌」だから安全、という発想は危険だ。免疫不全状態では、どんな菌も脅威になりうる。

腸内フローラの撹乱

特定の乳酸菌を大量に投与すれば、腸内のバランスは確実に変わる。

その結果は「改善」とは限らない。

下痢、軟便の悪化。消化不良。かえって体調を崩すケースは、決して珍しくない。

「整えよう」として、壊している可能性がある。

ペット用サプリの品質管理問題

ここが恐ろしいところだ。

ペット用サプリメントの品質管理基準は、人間用に比べて驚くほど緩い。表示されている菌数と、実際に含まれている菌数が一致しない製品は珍しくない。

保管状態が悪ければ、菌は簡単に死滅する。カプセルを開けた瞬間、そこに生きた菌はほとんど残っていないかもしれない。

さらに悪いことに、汚染菌の混入リスクもある。製造工程で他の細菌が紛れ込み、それがペットの体内で問題を起こす。こうした事例は表に出にくいが、ゼロではない。

基礎疾患を持つ個体へのリスク

膵炎、IBD(炎症性腸疾患)、腎不全。こうした基礎疾患を抱えた猫や犬に、無批判に乳酸菌サプリを与えるのは危険だ。

代謝が落ちている個体、炎症が慢性化している腸に、さらなる刺激を加えることになる。

「腸内環境を整えるため」という善意が、かえって病態を悪化させる可能性がある。

抗生物質耐性遺伝子の問題

最後に、これは将来的なリスクだが無視できない。

一部の乳酸菌株は、抗生物質耐性遺伝子を保有している。この遺伝子が腸内の他の細菌に水平伝播すれば、耐性菌の拡散につながる。

「安全な善玉菌」という認識で無防備に使い続ければ、将来的に取り返しのつかない問題を生む可能性がある。

「乳酸菌は安全」という前提で思考停止していないだろうか。

どんな物質も、どんな菌も、投与すれば体内で何らかの変化を起こす。それが常に「良い変化」だとは限らない。

「善玉菌だから大丈夫」という雑な理解が、事故を招く。

本当に必要なのは何か

では、腸内環境を本当に整えたいなら、どうすればいいのか。

まず、食事だ。肉食動物である猫には、高品質な動物性タンパク質を中心とした食事。犬も同様に、生物学的に適した食材を選ぶ。加工度が低く、添加物の少ない食事。できれば手作り食や生食を検討する。

次に、発酵食品の活用だ。少量のヨーグルトやケフィアを与えることで、様々な種類の乳酸菌を自然に摂取できる。高価なサプリメントより、よほど多様性がある。

そして、食物繊維源。かぼちゃ、サツマイモなど、腸内細菌の餌となる食材を適度に加える。これが健全な腸内環境を育てる。

乳酸菌サプリメントが必要なのは、限定的なケースだけだ。抗生物質治療の後、消化器疾患からの回復期など。それも、獣医師の指導のもとで、短期間の使用に留めるべきだろう。

結論:まともな食事を与えていれば、サプリなんて要らない

結局のところ、これに尽きる。

適切な食事を与えていれば、高額な乳酸菌サプリメントなど必要ない。腸内環境は自然に整う。それが生物の本来の姿だ。

「腸内環境のために乳酸菌!」と叫ぶ前に、毎日のフードの原材料表示を見てほしい。それが全ての出発点だ。

サプリメントに頼る前に、食事を見直す。当たり前のことを、当たり当にやる。それだけで、多くの問題は解決する。

業界は便利な商品を売りたがる。でも、あなたの猫や犬に本当に必要なものは何か。それを見極める目を持つことが、飼い主としての責任だと私は思うけどね。

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