PFASが検出されなかったペットフードはどれ?

 

2026年2月、愛媛大学の野見山桂准教授らの研究グループが、日本で流通する犬猫用ペットフード100製品を対象に、34種類のPFAS(有機フッ素化合物)を網羅的に分析した結果を学術誌「Environmental Pollution」に発表。ペットフードを対象にした体系的なPFAS分析としては、国内初の大規模研究。

犬猫フードの広範からPFAS検出 愛媛大の研究グループが分析||毎日新聞

ペットフードのPFAS汚染に関する論文を発表しました。|愛媛大学

市販ペットフードからPFASを広範に検出 ― 魚由来原料が主要な曝露源、犬猫の健康リスクが懸念される製品も

結果は、100製品中92製品から何らかのPFASを検出。

この報道を受けて、SNSでは「商品名を公開すべき」「どのフードが安全なのか教えてほしい」という声が多く見られた。

92製品から検出された、ということは——検出されなかったのは、わずか8製品。

この記事では、「検出されなかったフードを探す」という行動の前に、知っておくべきことを整理する。

検出されなかった8製品は「安全」なのか

まず確認しておきたいのは、「検出されなかった」と「含まれていない」はイコールではないということだ。分析には検出限界がある。今回の研究で検出限界未満だった製品にPFASがゼロだったかどうかは、誰にもわからない。

そしてもうひとつ。ここからが本題だ。

PFASは環境中に広く存在する汚染物質だ。天然の魚や肉を原材料に使えば、現在の地球環境では、何らかのPFASが検出されるのはむしろ当然のこと。

では、検出されなかった製品は何が違うのか。

考えられる可能性のひとつは、天然素材の使用比率が低い、あるいは高度に精製・加工された原材料が中心である、ということだ。つまり「検出されなかった」は「安全で良質なフード」を意味するとは限らない。

逆に、検出されたフードは、本物の魚や肉をしっかり使っていたからこそ、環境由来のPFASが反映された可能性がある。

「検出されなかったフードを選べば安心」という発想は、この構造を見落としている。

ただし、8製品が“なぜ”検出限界未満だったかはデータが無い以上、断定できない。

なぜ魚で高く、鶏肉で低いのか——汚染の仕組みを知る

今回の研究では、魚を主原料とするフードでPFAS濃度が有意に高いという結果が出ている。特にPFOS、PFUnDA、PFTrDAなどの長鎖PFASが多く検出され、海洋食物網での生物濃縮を反映していると分析されている。

PFASの蓄積には、明確なパターンがある。

食物連鎖の位置で変わる。 PFASは食物連鎖の上位にいる生物ほど高濃度に蓄積する。マグロやサーモンのような大型の捕食魚は、イワシのような小型魚より濃度が高くなる傾向がある。

臓器によって桁違いに違う。 PFASはタンパク質に親和性が高く、肝臓や腎臓に集中的に蓄積する。ベルギーFASFC(AFSCA)科学委員会の報告では、牛のPFOS濃度は肝臓が筋肉の平均21倍(6〜34倍)、腎臓が平均8倍(3〜12倍)と推定されている。心臓(ハツ)は筋肉組織が主体のため、肝臓ほどの蓄積は起きない。

動物の種類でも異なる。 家禽(鶏など)は哺乳類よりもPFASの代謝・排出が速いことがわかっている。ポーランドの農場動物を対象とした研究では、筋肉中のPFAS濃度はイノシシ > 牛 > シカ > 豚 > 鶏の順で、鶏の筋肉からは13種のPFASがいずれも検出されなかった。

養殖か天然かでも違う。 米国地質調査所(USGS)の世界規模の研究では、養殖魚のPFOS・PFOA濃度は天然魚より一貫して低いことが確認されている。養殖場は水質と飼料を管理できるため、汚染経路が限られるからだ。

これらの知識があれば、商品名の一覧がなくても、原材料欄を読むだけである程度の判断ができる。

商品名を知っても、問題は解決しない

仮に今回の研究で検出された製品の商品名が公開されたとして、何が起きるだろうか。

おそらく、消費者はその製品を避けて、別の製品に切り替える。でも、切り替えた先の製品が同じように魚を主原料としていれば、PFASの曝露量はほとんど変わらない。あるいは、検出されなかった製品に殺到するかもしれない。しかし先述のとおり、検出されなかった理由が「天然素材が少ないから」であれば、PFASは避けられても、別の問題——原材料の透明性や栄養の質——を抱え込むことになる。

商品名の公開を求める声の根底にあるのは、「正しい製品を選べば問題は解決する」という前提だ。しかし今回の研究が示しているのは、100製品中92製品から検出されるほど、PFASは環境全体に広がっているという事実だ。

特定の「犯人」はいない。問題は構造的なものだ。

市販フードのもうひとつの不透明さ

PFASの議論とは別に、市販フードには以前から指摘されてきた不透明さがある。

パッケージには「ビタミンA添加」「亜鉛添加」と書かれていても、それが合成のレチニルアセテートなのかパルミテートなのか、酸化亜鉛なのかキレート亜鉛なのかは記載されない。由来も製造国も、生体利用率も、消費者には判断できない。これらは栄養素の「名前」は同じでも、体内での吸収効率や安全性が異なる。

つまり市販フードには、原材料の汚染レベル、栄養添加物の由来と品質、そして包装材からの化学物質の移行という、少なくとも三重の不透明さがある。今回のPFAS研究は、そのうちのひとつを可視化したに過ぎない。

では、どうすればいいのか

この記事は、市販フードを否定するために書いているわけではない。すべてのフードからPFASを排除することは、現在の環境汚染の状況では不可能だ。手作り食であっても、天然の食材を使う以上、PFASの曝露をゼロにはできない。

しかし、仕組みを理解していれば、できることはあるはずだ。

原材料欄を「仕組み」で読む。 魚が主原料のフードはPFASが高い傾向がある。鶏肉ベースは相対的に低い。これだけでも、選び方は変わる。

「検出されなかった」を鵜呑みにしない。 なぜ検出されなかったのかを考える。天然素材が少ないからではないか。検査感度の問題ではないか。

今検出されていなくても、今後はわからない。 今回の研究はペットフードのPFASを体系的に調べた初の大規模研究だ。今まで「問題なし」とされていたのは、たまたまのロットかもしれないし、測っていなかっただけかもしれない。

完璧を求めず、曝露量を「管理」する視点を持つ。 PFASは蓄積する臓器、動物種、養殖か天然かで濃度が大きく変わる。リスクをゼロにはできなくても、相対的に下げることは可能だ。

最後に

「どのフードが安全か」というリストを探すのは、わかりやすい答えを求める自然な反応だ。でも、その問いは出発点としては正しくても、ゴールにはならない。

リストは変わる。環境は変わる。測定技術も変わる。

変わらないのは、「なぜ汚染されるのか」「何が蓄積しやすいのか」という仕組みの理解だ。それがあれば、どんな新しい情報が出てきても、自分で判断できる。

愛する猫や犬のために何ができるかを考えるとき、必要なのは「安全なフードの名前」ではなく、「安全とは何かを自分で考える力」だと、私は思う。

Q&A —

Q. PFASが検出されなかったフードを選べば安全?

一概にそうとは言えない。検出されなかった理由が「天然素材の使用が少ない」「高度に加工された原材料が中心」である可能性がある。PFASは避けられても、原材料の質という別の問題が残る。また、今回の分析で検出限界未満だったとしても、PFASがゼロである保証はない。

Q. 商品名やメーカー名は公開されないの?

今回の研究は学術研究であり、個別の商品名の公開を目的としたものではない。しかしそれ以前に、100製品中92製品から検出されている時点で、これは特定メーカーの問題ではなく、環境全体の汚染が原材料に反映されているという構造的な問題だ。商品を切り替えても、同じ種類の原材料を使っていれば曝露量は大きく変わらない。

Q. 魚ベースのフードはやめたほうがいい?

魚はPFASに限らず、DHAやEPAなど猫にとって有益な栄養素も含んでいる。一律に避けるのではなく、「魚ベースのフードはPFASが高い傾向がある」という知識を持った上で、頻度や他のフードとのローテーションを考えるのが現実的だ。食物連鎖の下位にいる小型魚(イワシなど)は大型魚より相対的に低い傾向がある。

Q. ドライフードとウェットフード、どちらがPFASが多い?

今回の研究では、1gあたりの濃度はドライフードの方が高い傾向が見られた。猫用ドライフードの最高値は16 ng/g、ウェットフードは9.9 ng/gだった。ただし、ウェットフードは水分が多い分、給餌量が増えるため、摂取量換算での曝露量はウェットフードの方が高くなる場合もあると報告されている。単純な比較は難しい。

Q. 手作り食ならPFASを避けられる?

完全には避けられない。天然の食材を使う以上、環境由来のPFASは含まれる。ただし、手作り食の利点は原材料をすべて把握できることにある。「どの部位を」「どの動物種で」「どの産地から」使うかをコントロールできるため、仕組みを理解していればPFAS曝露を相対的に低く管理することは可能だ。

Q. PFASは「永遠の化学物質」と呼ばれているけど、体から排出されないの?

種によって大きく異なる。ヒトの場合、PFOSの半減期は約5年と非常に長い。一方で鶏は代謝が速く、曝露を止めれば鶏は半減期が短い傾向(17〜125日など幅)。牛のPFOS半減期は39〜120日。猫については種特異的な排出データがほとんどなく、今後の研究が待たれる。

Q. 今まで問題なかったのに、なぜ今になって騒がれているの?

問題がなかったのではなく、測っていなかった。今回の愛媛大の研究は、ペットフードのPFASを体系的に調べた初の大規模研究だ。測定技術の向上と、PFASの健康影響に対する関心の高まりが背景にある。今後、より多くの製品や食材が分析対象になれば、さらに多くのデータが明らかになるだろう。

参考文献

  • Nomiyama, K. et al. (2026). “Widespread PFAS contamination in pet food: Dietary sources and health risks to companion animals.” Environmental Pollution.
  • EFSA (2020). “Risk to human health related to the presence of perfluoroalkyl substances in food.” EFSA Journal.
  • USGS (2024). “Cleaner cuts: Farmed fish and skin-off fillets are lower in per- and polyfluoroalkyl substances (PFAS).”
  • Houben et al. (2025). “Correlation between the PFAS levels in bovine blood and the levels in the meat and offal of these animals.” Food Risk Assess Europe.
  • Mikołajczyk et al. (2024). “Chickens’ eggs and the livers of farm animals as sources of perfluoroalkyl substances.” J Vet Res.
  • Sznajder-Katarzyńska et al. (2024). “Perfluoroalkyl substances in the meat of Polish farm animals and game.” Science of The Total Environment.

 

個人的に注目したのは「穀物ベースの犬用フードでもPFASが高かった」という点。魚を使っていなくても、農業排水で汚染された穀物や、タンパク源として添加された魚副産物からPFASが入り込む経路があるということで、「原材料の表面的な読み取りだけでは判断できない」という主張をさらに裏付けるデータだ。

環境汚染がここまで拡大してしまっている。もう原材料の種類の問題ではなく、その原材料が育った環境の問題になっている。

PFASを含む製品の製造・使用工場排水・泡消火剤・廃棄物土壌・地下水・河川・海洋の汚染その環境で育つ穀物・牧草・魚すべてに移行それを原材料にしたフードからPFASが検出される

だから「どのフードが悪い」ではなく「地球が汚染されている」が正確な描写で、フードメーカーも被害者側とすら言える。原材料を仕入れた時点で、すでにPFASが入っているのだ。

これを考えると、SNSの「商品名を公開しろ」がいかにピントがずれているかがよくわかる。メーカーを叩いても汚染は止まらない。本当に追及すべきは、何十年もPFASを製造・使用してきた化学メーカーや、規制が遅れた各国の行政の方だ。

 

SNSで「商品名を公表すべきだ!」「どれなら安全なフードなの?」と言い出し始める意味が全くわからない。そもそも緩すぎる規制で汚染を「許容」してきたのが、日本ではないのかな。次のREPORTも非常に有益だったので紹介しよう。

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