# ハカセ×MIA 人間と猫のカラダから読み解く対談シリーズ
自然の叡智シリーズ Vol.4|ミネラルは「単独」では働けない──バランスの芸術
ミネラルは「シーソー」のような関係
ハカセ まず、ミネラルの特徴を理解しましょう。
ビタミンとミネラルの最も大きな違いは:
ビタミン:
– 有機化合物(炭素を含む複雑な分子)
– それぞれが独立して働くことが多い
– 「形」が重要
ミネラル:
– 無機物(元素そのもの)
– 互いに影響し合う
– 「バランス」が重要
ミネラルは、まるでシーソーのような関係なんです。
ハカセ はい。片方が上がると、もう片方が下がる。
例えば:
– カルシウムが増えると、マグネシウムの吸収が減る
– 亜鉛が増えると、銅の吸収が減る
– 鉄が増えると、亜鉛の吸収が減る(条件による)
一つだけ突出して多いと、他のミネラルが全部おかしくなるんです。
—
カルシウム・マグネシウム・リンの「黄金比」
ハカセ まず、最も重要な3つのミネラルから見ていきましょう。
カルシウム(Ca)・マグネシウム(Mg)・リン(P)
この3つは、体の中で密接に関係しています。
理想的な比率(猫の場合)
Ca : P = 1.0〜1.5 : 1
Ca : Mg = 2〜3 : 1
これが「黄金比」です。
ハカセ それぞれが互いに影響し合うからなんです。
カルシウムとリンの関係
バランスが良い場合(Ca:P = 1.2:1)
↓
適度な比率で吸収される
↓
骨や歯の材料になる
↓
余剰分は排泄される
リンが多すぎる場合(Ca:P = 1:3)
↓
血中のリン濃度が上がる
↓
体が「カルシウムが足りない!」と誤認
↓
副甲状腺ホルモン(PTH)が分泌される
↓
骨からカルシウムを溶かし出す
↓
骨がもろくなる(栄養性二次性副甲状腺機能亢進症)
逆に、カルシウムが多すぎる場合(Ca:P = 3:1)
↓
リンの吸収が阻害される
↓
リン欠乏になる
↓
骨の石灰化がうまくいかない
つまり、どちらか一方だけが多くても少なくてもダメなんです。
—
マグネシウムの隠れた役割
ハカセ マグネシウムは「調整役」なんです。
マグネシウムの働き
1. カルシウムの吸収・利用を助ける
– マグネシウムがないと、カルシウムが骨に定着しない
– 「カルシウムを骨に運ぶトラック」のような存在
2. リンの代謝を調整
– リンの排泄を助ける
– 血中リン濃度を適正に保つ
3. 副甲状腺ホルモンの分泌を調整
– マグネシウム不足だと、PTHが過剰分泌される
– 骨からカルシウムが溶け出す
つまり、マグネシウムは「Ca・P・Mgトリオ」の指揮者なんです。
ハカセ まさに!これが「単独では働けない」という意味なんです。
バランスが崩れるとどうなるか
ケース1:カルシウムだけを補給
↓
マグネシウムが相対的に不足
↓
カルシウムが骨に定着しない
↓
余ったカルシウムが…
・尿路結石の原因に
・血管に沈着(石灰化)
・軟部組織に沈着
ケース2:マグネシウムだけを補給
↓
カルシウムの吸収が阻害される
↓
カルシウム不足になる
↓
骨が弱くなる
ケース3:リンが多い食事(肉が多すぎる、加工食品)
↓
カルシウムとマグネシウムが相対的に不足
↓
骨からミネラルが溶け出す
どれか一つだけ足しても、バランスが崩れて逆効果なんです。
—
自然な食材には「ちょうど良い比率」がある
ハカセ これが驚くべきことなんですが、自然な食材には、最初から理想的な比率で入っているんですよ。
様々な食材のミネラル比率(100gあたり)
鶏肉(もも肉)
– Ca:5mg
– P:170mg
– Mg:21mg
– Ca:P = 1:34(リンが多い)
鶏肉(骨付き)
– Ca:大幅に増加
– Ca:P = 約1.5:1(理想的!)
魚(サーモン、骨ごと)
– Ca:約200mg
– P:約200mg
– Mg:約30mg
– Ca:P = 1:1(理想的!)
卵
– Ca:50mg
– P:180mg
– Mg:11mg
– Ca:P = 1:3.6(リンがやや多い)
レバー(鶏)
– Ca:5mg
– P:330mg
– Mg:19mg
– Ca:P = 1:66(リンが非常に多い)
緑黄色野菜(ほうれん草など)
– Ca:49mg
– P:47mg
– Mg:69mg
– Ca:P = 1:1、Mg豊富(バランス◎)
見てわかる通り、単独の食材だけでは理想的な比率にならないことが多いんです。
ハカセ 良い質問です!ここが重要なポイントなんですよ。
自然な食事は「組み合わせ」で完璧になる
野生の肉食動物は、獲物を「丸ごと」食べます。
↓
筋肉(リンが多い)
+ 骨(カルシウムが多い)
+ 内臓(マグネシウム含む)
+ 血液(微量元素)
↓
全部合わせると、Ca:P:Mg の比率が理想的に!
つまり、自然な食事は「一つの食材」ではなく「食事全体」でバランスが取れるように設計されているんです。
—
亜鉛と銅の「絶妙な関係」
ハカセ 次に、もう一つ重要なミネラルの関係を見てみましょう。
亜鉛(Zn)と銅(Cu)
この2つも、密接に関係しています。
理想的な比率
Zn : Cu = 10〜15 : 1
これが理想的な比率です。
ハカセ そうです。でも、この比率が崩れると大変なことになるんですよ。
亜鉛と銅の相互作用
亜鉛が多すぎる場合
↓
小腸で亜鉛が優先的に吸収される
↓
銅の吸収が阻害される(競合阻害)
↓
銅欠乏になる
↓
以下の問題が起こる:
・貧血(銅がないと鉄が使えない、前回のVol.2参照)
・被毛の色素異常
・骨の異常
・神経障害
銅が多すぎる場合(稀)
↓
亜鉛の吸収が阻害される
↓
亜鉛欠乏になる
↓
以下の問題が起こる:
・皮膚炎
・免疫機能低下
・傷の治りが遅い
・被毛の劣化
どちらか一方が多すぎても、もう一方が欠乏する。これが「シーソー関係」です。
—
鉄・亜鉛・銅の「三角関係」
ハカセ さらに複雑なのが、鉄・亜鉛・銅の三角関係なんです。
3つのミネラルの相互作用
鉄(Fe)
– 赤血球のヘモグロビンを作る
– でも、銅がないと使えない(Vol.2で説明しましたね)
銅(Cu)
– 鉄を運搬可能な形に変換する
– でも、亜鉛が多すぎると吸収できない
亜鉛(Zn)
– 数百の酵素の補因子
– 免疫、皮膚、被毛に必須
– でも、鉄や銅と吸収経路が競合する
↘ ↙
亜鉛
三角関係なので、一つが変わると全体が変わる!
ハカセ そうなんです。だからこそ、「一つだけサプリで足す」ことが危険なんですよ。
実例:亜鉛サプリの落とし穴
↓
獣医師「亜鉛不足かもしれません」
↓
飼い主が亜鉛サプリを与える
↓
一時的に皮膚炎は改善
↓
でも数ヶ月後…
↓
今度は貧血になる(銅欠乏による)
↓
被毛の色も薄くなる
↓
亜鉛サプリで銅が足りなくなった!
一つを足すと、別の問題が起こる。これがミネラルの怖さです。
—
ナトリウムとカリウムの「電解質バランス」
ハカセ もう一つ、重要なペアがあります。
ナトリウム(Na)とカリウム(K)
この2つは「電解質」として、体液のバランスを保っています。
理想的な比率
Na : K = 1 : 2〜3
カリウムの方が多いのが自然です。
役割
ナトリウム(Na)
– 細胞「外」の主要電解質
– 血圧の維持
– 神経伝達
カリウム(K)
– 細胞「内」の主要電解質
– 心臓の機能
– 筋肉の収縮
細胞膜には「ナトリウム・カリウムポンプ」がある
カリウムを細胞内へ
↓
この出入りで「電位差」が生まれる
↓
神経が信号を伝える
心臓が拍動する
筋肉が収縮する
このバランスが崩れると:
– 高ナトリウム:高血圧、心臓への負担
– 低カリウム:不整脈、筋力低下
比率が大事!
—
現代のフードの問題点
ハカセ これが問題なんです。
加工食品の落とし穴
問題1:リンが多すぎる
– 加工肉、肉副産物にはリンが豊富
– Ca:P比が 1:2 や 1:3 になることも
– 慢性的にリン過剰→骨が弱くなる、腎臓への負担
問題2:カルシウムを「後から足す」
– リンが多いから、カルシウムを添加して調整
– でも「炭酸カルシウム」などの無機塩
– 自然な形ではない→吸収率が不安定
問題3:ナトリウムが多すぎる
– 保存料、風味付けで食塩を添加
– Na:K比が逆転(ナトリウムが多くなる)
– 慢性的に高血圧リスク
問題4:単独ミネラルの強化
– 「亜鉛強化!」→銅欠乏のリスク
– 「鉄分強化!」→亜鉛吸収阻害のリスク
– バランスが崩れる
– 「最低これだけは必要」という下限値
– でも「比率」や「バランス」までは細かく規定していない
– だから、基準を満たしても「バランスが悪い」フードが存在するんです。これが、基準の限界なんですよ。
—
自然な食材はなぜバランスが良いのか?
ハカセ これが、自然の最も美しい設計なんです。
生物は「必要な比率」で体を作る
例えば、ネズミの体:
– 骨格:Ca、P、Mgが理想的な比率で含まれる
– 筋肉:K、Mg、Znが豊富
– 血液:Fe、Cu、微量元素
– 内臓:様々なミネラルがバランスよく
つまり、生きている動物の体は、最初から「必要なミネラルが必要な比率」でできているんです。
だから、猫が獲物を丸ごと食べれば:
– 骨から:Ca、P
– 筋肉から:Mg、K、Zn
– 内臓から:Fe、Cu、Se
– 血液から:微量元素
全部合わせると、猫にとって理想的な比率になる!
共進化の結果
肉食動物(猫)の体は、数千万年の進化の中で:
– 「獲物を丸ごと食べる」ことを前提に設計された
– その獲物のミネラル比率に、体が適応した
だから、自然な食事には最初から「完璧なバランス」が組み込まれているんです。
—
「一つだけ足す」ことの危険性
ハカセ ここまで見てきてわかるように、ミネラルは絶対に単独で足してはいけないんです。
なぜ危険なのか
理由1:シーソー効果
– 一つが増えると、他が減る
– バランスが連鎖的に崩れる
理由2:競合阻害
– 同じ吸収経路を使うミネラルが競合
– 過剰な方が優先され、他が吸収できなくなる
理由3:二次的欠乏
– 一つを補給したつもりが、別の欠乏を引き起こす
– 例:カルシウムサプリ→マグネシウム欠乏→骨がもろくなる
理由4:蓄積毒性
– 過剰なミネラルは排出されにくいものもある
– 長期的に蓄積して毒性を示すことも
典型的な失敗例
ケース1:カルシウムサプリの過剰投与
↓
カルシウムサプリを毎日与える
↓
マグネシウムが相対的に不足
↓
カルシウムが骨に定着しない
↓
尿路結石、血管の石灰化
ケース2:亜鉛サプリで皮膚改善を試みる
↓
亜鉛サプリを長期投与
↓
銅の吸収が阻害される
↓
貧血、被毛の色素異常
ケース3:手作り食で肉だけを与える
↓
筋肉にはリンが豊富、カルシウムは少ない
↓
Ca:P比が 1:20 とかになる
↓
骨からカルシウムが溶け出す
↓
栄養性二次性副甲状腺機能亢進症
どれも「良かれと思って」やったことが、逆効果になっているんです。
—
自然な食材から学ぶ「バランスの芸術」
ハカセ では、どうすれば良いのか?答えは「自然に学ぶ」です。
自然な食事の原則
1. 多様性
– 一つの食材に頼らない
– 肉、骨、内臓、魚、卵など多様に
2. 丸ごと
– 可能な限り「丸ごと」に近い形で
– 骨付き肉、小魚(骨ごと)など
3. ローテーション
– 毎日同じものではなく、日替わりで
– 足りないミネラルを、別の日に補う
4. 加工度を低く
– 新鮮な食材
– 過度な加工をしていないもの
具体例:バランスの取れた1週間
月曜:鶏肉(骨付き)
– Ca、P、Mgのバランス◎
火曜:サーモン(骨ごと)
– Ca、P、オメガ3、セレン
水曜:レバー
– 鉄、銅、ビタミンA
木曜:卵
– 完全アミノ酸、多様なミネラル
金曜:鶏心臓
– タウリン、CoQ10、鉄
土曜:サバ(骨ごと)
– Ca、P、オメガ3
日曜:ターキー(骨付き)
– バランスの取れたミネラル
これで、1週間トータルで見ると、全てのミネラルが理想的な比率になる!
—
まとめ:バランスは「全体」で作る
ハカセ そうなんです。今日学んだことを整理しましょう。
今日の重要ポイント
1. ミネラルは「シーソー関係」
– 一つが増えると、他が減る
– 単独では働けない
2. 重要な比率
– Ca:P = 1.0〜1.5:1
– Ca:Mg = 2〜3:1
– Zn:Cu = 10〜15:1
– Na:K = 1:2〜3
3. 「一つだけ足す」は危険
– 競合阻害
– 二次的欠乏
– バランスが連鎖的に崩れる
4. 自然な食材には理想的な比率
– 獲物を「丸ごと」食べれば完璧
– 生物の体は、最初から必要な比率でできている
5. バランスは「全体」で作る
– 一つの食材ではなく、食事全体
– 多様性とローテーションが鍵
6. 加工食品の落とし穴
– リン過剰、ナトリウム過剰が多い
– 単独ミネラル強化でバランスが崩れる
– 基準を満たしても、比率が悪いことがある
7. 自然の叡智
– 数千万年の共進化の結果
– 「完璧なバランス」が最初から組み込まれている
—
私たちにできること
ハカセ 実践的なポイントを整理しましょう。
フード選びのポイント
1. Ca:P比を確認
– パッケージの成分分析表を見る
– Ca:P = 1.0〜1.5:1 が理想
– 1:2以上離れているものは避ける
2. 「○○強化」を謳うフードは慎重に
– 単独ミネラル強化はバランスを崩す可能性
– 「カルシウム強化」→マグネシウムは?
– 「亜鉛配合」→銅は?
3. 原材料の多様性
– 複数の動物性タンパク源
– 骨や内臓も含まれているか
日々の食事
1. トッピングで多様性を
– 骨付き肉(Ca、P)
– 小魚(骨ごと)(Ca、P、微量元素)
– レバー(Fe、Cu)
– 卵(バランスの取れたミネラル)
2. ローテーションする
– 毎日違う食材
– 週単位でバランスを取る
3. 加工度の低い食材
– 新鮮な肉、魚
– 骨も含める(粉砕や骨ごと食べられる小魚)
サプリメントについて
絶対に避けるべき:
– 単独ミネラルサプリ(カルシウムだけ、亜鉛だけ、など)
– 「何となく良さそう」で与える
使うとしたら:
– 獣医師の診断と指示がある場合のみ
– 血液検査で明確な欠乏が確認された場合
– その場合でも、バランスを考慮したマルチミネラル
基本方針
「一つを足す」のではなく「全体でバランスを取る」
– 自然な食材の多様性
– ローテーション
– 丸ごとに近い形
– これが、自然から学ぶ「バランスの芸術」です
—
次回予告
ハカセ 次回Vol.5では、「腸内細菌が喜ぶのは自然の食材──見えない共生者たち」という話をします。
実は、栄養素を吸収するのは「猫の体」だけじゃないんです。
腸内には数兆個の細菌が住んでいて、彼らも栄養素を食べています。
そして、人工鉄は悪玉菌を増やすけど、ヘム鉄は腸内細菌に優しいんですよ。
さらに、自然な食材には「腸内細菌へのご馳走」がたくさん含まれているんです。
ハカセ 大いにあります!実は、腸内細菌こそが「健康の要」なんです。
そして、自然な食材は猫だけでなく、腸内細菌も喜ばせるように作られているんですよ。
次回も、自然の深い配慮に驚くはずです。お楽しみに!
—
今日のポイント
1. ミネラルは「単独」では働けない
シーソー関係、三角関係。一つが変わると全体が変わる。
2. 「一つだけ足す」は危険
良かれと思ってやったことが、逆効果になる。
3. 自然な食材には理想的な比率
獲物を丸ごと食べれば、完璧なバランス。
4. バランスは「全体」で作る
一つの食材ではなく、食事全体でバランスを取る。
5. 自然の叡智:共進化の奇跡
数千万年かけて、獲物のミネラル比率に体が適応した。完璧な設計。
—
次回予告:Vol.5「腸内細菌が喜ぶのは自然の食材──見えない共生者たち」お楽しみに!
