本資料では、主要な検査項目とその数値の読み方について解説。
注意: ここに示す基準値は代表的な参考範囲であり、検査機関や施設によって多少異る。実際の診断には、使用する検査機関の基準値を参照すること。
1. 血球計算(CBC: Complete Blood Count)
赤血球系
| 項目 | 正常値 | 高値の原因 | 低値の原因 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| RBC (赤血球数) |
5.0~10.0 × 10⁶/μL | 脱水、多血症、 慢性腎不全 |
貧血、出血、溶血 | |
| Hb (ヘモグロビン) |
9.3~15.9 g/dL | 脱水、多血症 | 貧血の程度を示す 重要な指標 |
検査機関により 8.0~15.0 g/dLとする場合もあり |
| Ht/PCV (ヘマトクリット値) |
30~45% | 脱水、多血症 | 貧血 過度の水分摂取 |
検査機関により 24~45%とする場合もあり。 24%は軽度貧血の目安 |
| MCV (平均赤血球容積) |
39~55 fL | 大赤血球性貧血 ビタミンB12欠乏 |
小赤血球性貧血 鉄欠乏性貧血 |
|
| MCHC (平均赤血球ヘモグロビン濃度) |
30~38 g/dL | 球状赤血球症 | 鉄欠乏性貧血 慢性疾患による貧血 |
白血球系
| 項目 | 正常値 | 高値の原因 | 低値の原因 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| WBC (白血球数) |
5,500~19,500/μL | 感染症、炎症 白血病、ストレス |
ウイルス感染 骨髄機能低下、免疫抑制 |
|
| 好中球 (Neutrophils) |
50~70% (2,500~12,500/μL) |
細菌感染 炎症、ストレス |
ウイルス感染 骨髄機能低下 |
%は参考値。 解釈は絶対数優先 |
| リンパ球 (Lymphocytes) |
20~55% (1,500~7,000/μL) |
ウイルス感染 慢性炎症、白血病 |
ストレス、免疫不全 ステロイド投与 |
%は参考値。 解釈は絶対数優先 |
| 単球 (Monocytes) |
1~4% (150~1,350/μL) |
慢性炎症 組織壊死、回復期 |
– | %は参考値。 解釈は絶対数優先 |
| 好酸球 (Eosinophils) |
0~12% (0~1,500/μL) |
アレルギー 寄生虫感染、好酸球性疾患 |
– | %は参考値。 解釈は絶対数優先 |
| 好塩基球 (Basophils) |
0~2% | アレルギー反応 白血病(稀) |
– | 極めて稀だが検出=直ちに病的とは限らない |
血小板系
| 項目 | 正常値 | 高値の原因 | 低値の原因 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| PLT (血小板数) |
200,000~500,000/μL | 血小板血症 炎症、悪性腫瘍 |
血小板減少症 出血傾向 骨髄機能低下 |
猫は血小板凝集しやすく偽 低値を示すことがある |
2. 血液生化学検査
肝機能関連
| 項目 | 正常値 | 高値の原因 | 低値の原因 | 臨床的意義・備考 |
|---|---|---|---|---|
| ALT | 10~100 U/L | 肝細胞障害、肝炎、肝壊死 | – | 肝細胞の損傷を最も鋭敏に反映 |
| AST | 10~100 U/L | 肝障害 筋障害(骨格筋・心筋) 心筋障害 |
– | 肝臓と筋肉の両方に存在 |
| ALP | 14~111 U/L | 胆汁うっ滞 骨疾患、成長期 ステロイド投与 |
– | 胆道系疾患のマーカー。 猫では犬ほどステロイド誘導が顕著でない。 半減期が短いため軽度上昇でも注意が必要 |
| T-Bil (総ビリルビン) |
0.1~0.4 mg/dL | 溶血、肝機能低下 胆道閉塞 |
– | 黄疸の原因を特定 |
| TP (総蛋白) |
5.7~8.9 g/dL | 脱水、慢性炎症 多発性骨髄腫 |
肝機能低下 腎疾患、栄養不良 |
検査機関により5.4~7.8 g/dL とする場合もあり |
| Alb (アルブミン) |
2.1~3.3 g/dL | 脱水 | 肝機能低下 腎疾患、栄養不良、炎症 |
腎機能関連
| 項目 | 正常値 | 高値の原因 | 低値の原因 | 臨床的意義・備考 |
|---|---|---|---|---|
| BUN (尿素窒素) |
14~36 mg/dL | 腎機能低下 脱水 高蛋白食 消化管出血 |
肝機能低下 低蛋白食 |
施設により10~30 mg/dLなど大きく異なる |
| Cre (クレアチニン) |
0.9~2.1 mg/dL | 腎機能低下 筋肉量増加 |
– | 腎機能の最も信頼できる指標。 検査機関により0.8~2.4 mg/dLとする場合もあり |
| SDMA (対称ジメチルアルギニン) |
≤14 μg/dL | 腎機能低下 | – | クレアチニンより早期に上昇。 >14で腎機能低下を疑い、>18で異常確定とする場合が多い |
| P (リン) |
2.7~6.3 mg/dL | 腎機能低下 副甲状腺機能低下症 |
副甲状腺機能亢進症 栄養不良 |
検査機関により3.1~7.0 mg/dLとする場合もあり。 CKD猫では7.0 mg/dL以上もよく見られる。 IRIS推奨管理目標はステージ別に5.0~6.0未満 |
電解質バランス
| 項目 | 正常値 | 高値の原因 | 低値の原因 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| Na (ナトリウム) |
150~165 mEq/L (150~165 mmol/L) |
脱水、腎疾患 ホルモン異常 |
過度の水分摂取 腎疾患、心不全 |
施設によりNa 146~156 mEq/Lとする場合もあり。 下限146とする施設もある |
| K (カリウム) |
3.5~5.8 mEq/L (3.5~5.8 mmol/L) |
腎機能低下、細胞破壊 代謝性アシドーシス |
下痢、利尿薬 インスリン投与 |
溶血検体では偽高値に注意 |
| Cl (塩素) |
112~129 mEq/L (112~129 mmol/L) |
脱水、代謝性アシドーシス | 嘔吐、利尿薬 |
糖代謝
| 項目 | 正常値 | 高値の原因 | 低値の原因 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| Glu (グルコース) |
71~159 mg/dL | 糖尿病、ストレス ステロイド投与 |
インスリノーマ 肝疾患、敗血症 |
外来時のストレスで 144~360 mg/dL程度まで一過性上昇し、 糖尿病と誤診されやすい |
脂質代謝
| 項目 | 正常値 | 高値の原因 | 低値の原因 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| T-Cho (総コレステロール) |
82~218 mg/dL | 甲状腺機能低下症 糖尿病、肝疾患 |
肝機能低下 栄養不良 |
|
| TG (中性脂肪) |
25~133 mg/dL | 糖尿病 肥満、食後 |
栄養不良 肝機能低下 |
その他重要な項目
| 項目 | 正常値 | 高値の原因 | 低値の原因 | 臨床的意義・備考 |
|---|---|---|---|---|
| Ca (カルシウム) |
7.8~11.5 mg/dL | 副甲状腺機能亢進症 悪性腫瘍、ビタミンD中毒 |
副甲状腺機能低下症 腎疾患、低アルブミン血症 |
|
| CRP (C反応性蛋白) |
<0.2 mg/dL | 細菌感染 炎症、組織壊死 |
– | 猫では診断性能が限定的 |
| SAA (血清アミロイドA) |
<10 mg/L | 細菌感染、ウイルス感染 炎症、組織損傷 |
– | 猫の主要急性期蛋白。 CRPより鋭敏で診断性能が高い。 数時間で急上昇し、回復も早い |
3. 甲状腺機能検査
| 項目 | 正常値 | 高値の原因 | 低値の原因 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| T4 (サイロキシン) |
1.0~4.0 μg/dL | 甲状腺機能亢進症 | 甲状腺機能低下症 | |
| fT4 (遊離T4) |
10~50 pmol/L | 甲状腺機能亢進症 | 甲状腺機能低下症 | T4より正確な甲状腺機能の指標 |
| TSH (甲状腺刺激ホルモン) |
アッセイ・施設依存 | 甲状腺機能低下症 | 甲状腺機能亢進症 | 従来の犬TSHは診断感度に限界。 低値=亢進症の証明にはならない。 TT4±fT4、臨床像、 必要に応じてシンチやT3抑制試験で補完。 近年、猫用高感度TSH-CLIAの報告もあり |
4. 検査結果の総合的な読み方
貧血の分類
| 分類 | 特徴 | 原因 |
|---|---|---|
| 小球性低色素性貧血 | MCV↓、MCHC↓ | 鉄欠乏性貧血、慢性疾患による貧血 |
| 正球性正色素性貧血 | MCV正常、MCHC正常 | 急性出血、溶血性貧血、腎性貧血 |
| 大球性貧血 | MCV↑ | ビタミンB12欠乏、葉酸欠乏 |
肝機能評価のポイント
| 順序 | 項目 | 評価内容 |
|---|---|---|
| 1 | ALT、AST | 肝細胞の損傷程度 |
| 2 | ALP | 胆道系の問題 |
| 3 | T-Bil(ビリルビン) | 黄疸の原因 |
| 4 | Alb(アルブミン) | 肝臓の合成能力 |
| 5 | TP(総蛋白) | 全体的な蛋白質の状態 |
腎機能評価のポイント
| 順序 | 項目 | 評価内容 |
|---|---|---|
| 1 | Cre(クレアチニン) | 最も信頼できる腎機能指標 |
| 2 | SDMA | 早期腎機能障害の検出 |
| 3 | BUN | 腎機能と脱水状態の指標 |
| 4 | P(リン) | 慢性腎不全の進行指標 |
| 5 | 電解質バランス | 腎機能低下による二次的変化 |
膵機能評価のポイント
| 順序 | 項目 | 評価内容 |
|---|---|---|
| 1 | fPLI(猫膵特異的リパーゼ) | 膵炎の最も特異的な指標 |
| 2 | リパーゼ | 膵炎の指標(腎疾患での偽高値に注意) |
| 3 | アミラーゼ | 膵炎の補助診断 |
| 4 | 血糖値 | 膵島機能の評価 |
| 5 | 二次的変化 | 肝酵素、電解質、蛋白質の変動 |
膵炎による二次的変化
| 影響を受ける項目 | 変化 | 原因・機序 |
|---|---|---|
| 肝酵素(ALT、AST) | ↑ | 膵炎による肝障害、胆管圧迫 |
| T-Bil(総ビリルビン) | ↑ | 胆管圧迫、肝機能低下 |
| Ca(カルシウム) | ↓ | 急性膵炎での脂肪の石鹸化 |
| K(カリウム) | ↓ | 嘔吐、食欲不振による喪失 |
| TP/Alb | ↓ | 食欲不振、消化吸収不良 |
| Glu(グルコース) | ↑ or ↓ | 膵島細胞の損傷による血糖調節異常 |
心機能評価のポイント
| 順序 | 項目 | 評価内容 |
|---|---|---|
| 1 | NT-proBNP | 心疾患のスクリーニング(最も有用) |
| 2 | 心エコー検査 | 心機能・構造の直接評価 |
| 3 | トロポニンI | 心筋損傷の特異的検出 |
| 4 | 胸部X線 | 心拡大、肺水腫の評価 |
| 5 | 心電図 | 不整脈の検出 |
骨代謝評価のポイント
| 検査パターン | Ca | P | PTH | 25(OH)ビタミンD | 診断の方向性 |
|---|---|---|---|---|---|
| 原発性副甲状腺機能亢進症 | ↑ | ↓ | ↑ | 正常/↑ | 副甲状腺腫瘍、過形成 |
| 続発性副甲状腺機能亢進症 | ↓/正常 | ↑ | ↑ | ↓ | CKD、ビタミンD欠乏 |
| 副甲状腺機能低下症 | ↓ | ↑ | ↓ | 正常 | 副甲状腺摘出後、特発性 |
| ビタミンD中毒 | ↑ | ↑ | ↓ | ↑ | ロデンティサイド中毒 |
| CKD骨ミネラル異常 | 変動 | ↑ | ↑ | ↓ | 慢性腎不全の合併症 |
副腎機能評価のポイント
| 検査パターン | コルチゾール | ACTH | 診断 |
|---|---|---|---|
| 原発性副腎不全 | ↓ | ↑ | アジソン病 |
| 続発性副腎不全 | ↓ | ↓ | 下垂体機能低下症 |
| クッシング症候群 | ↑ | ↓(副腎性)/↑(下垂体性) | 副腎腫瘍/下垂体腫瘍 |
凝固機能評価のポイント
| 検査パターン | PT | APTT | 診断の方向性 |
|---|---|---|---|
| 外因系異常 | ↑ | 正常 | ワルファリン、ビタミンK欠乏、肝疾患初期 |
| 内因系異常 | 正常 | ↑ | 血友病、ヘパリン |
| 共通系異常 | ↑ | ↑ | 重篤な肝疾患、DIC |
5. 年齢・性別による正常値の変化
| 年齢・状態 | 特徴 |
|---|---|
| 子猫(6ヶ月未満) | ・RBC、Hb、Ht値が成猫より低い ・ALP値が成猫より高い(成長のため) ・TP、Albが成猫より低い |
| 成猫(1-6歳) | ・基準値範囲内での安定した数値 ・ストレス反応による一過性変動に注意 |
| シニア猫(7-10歳) | ・軽度の腎機能低下の可能性 ・甲状腺機能亢進症のスクリーニング開始 ・定期的な健康診断が重要 |
| 高齢猫(11歳以上) | ・腎機能の緩やかな低下 ・甲状腺機能亢進症のリスク大幅増加 ・慢性疾患による軽度の貧血 ・より頻繁な血液検査が推奨 |
| 妊娠・授乳期 | ・軽度の貧血(生理的) ・TP、Albの低下 ・Ca値の変動 |
6. 検査時の注意点
サンプル採取時の考慮事項
| 項目 | 注意点 |
|---|---|
| 絶食の必要性 | Glu、TGは食事の影響を受ける |
| ストレスの影響 | 血糖値、WBC、コルチゾールに影響 |
| 溶血の影響 | K、AST、LDH、Hbが偽高値 |
| 採血部位 | 頸静脈、伏在静脈、橈側皮静脈 |
| 検体の取り扱い | 迅速な処理と適切な保存温度の維持 |
検査結果に影響する要因
- 年齢・性別・品種
- 栄養状態・体重
- 投薬状況
- 既往歴・現病歴
- 検査室間差
7. 緊急時の判断基準
即座に対応が必要な数値
| 項目 | 危険値 | 臨床的意義 |
|---|---|---|
| Ht(ヘマトクリット値) | <15% | 重度貧血 |
| PLT(血小板数) | <30,000/μL <50,000/μL |
自発出血リスク上昇 侵襲的手技で出血リスク |
| Cre(クレアチニン) | >5.0 mg/dL | IRISステージ4 |
| SDMA | >25 μg/dL | 重度腎機能障害 |
| K(カリウム) | >7.0 mEq/L | 重度高K血症として心電図所見の有無に関わらず即治療 |
| Glu(グルコース) | ≤54~60 mg/dL | 緊急介入の目安。臨床症状があれば70 mg/dLでも危険 |
| 体温 | >41.5℃ | 熱中症、重篤な感染症。持続的なら緊急 |
8. まとめ
血液検査結果の解釈には、数値だけでなく臨床症状、身体検査所見、病歴を総合的に評価することが重要。
単一の検査値の異常だけで診断を確定せず、複数の検査項目の関連性を考慮し、必要に応じて追加検査を実施すること。
検査値は参考値であり、個体差や検査室による違いがある。継続的なモニタリングによる変化の把握が重要。
注意: この資料は教育目的で作成されており、実際の診断や治療には必ず獣医師の判断を仰ぐこと。
