手作り派にとってNRC・AAFCO基準は単なる目安

はじめに

猫の手作り食を検討する際、日本の多くの飼い主がNRC(米国学術研究会議)やAAFCO(米国飼料検査官協会)の栄養基準を参考にしようとする。しかし、これらの基準には重大な矛盾があり、手作り食の設計にそもまま適用できない。なぜ矛盾が生じるのか、海外の手作り派の動向と照らし合わせて考えてみる。

発覚した矛盾

NRC 2006年版の数値

栄養基準(1,000kcalあたり)

対象 タンパク質 脂質
仔猫(離乳後) 56.3g 22.5g
成猫 50g 22.5g

計算してみると…

これらの基準を100kcalのフードで実現しようとすると:

仔猫用フード

栄養素 重量 カロリー 比率
タンパク質 5.63g 22.5kcal 22.5%
脂質 2.25g 20.3kcal 20.3%
炭水化物 57.2kcal 57.2%

成猫用フード

栄養素 重量 カロリー 比率
タンパク質 5.0g 20kcal 20%
脂質 2.25g 20.3kcal 20.3%
炭水化物 59.7kcal 59.7%

問題点

仔猫で炭水化物57%、成猫で60%を占める計算になる。※理論的検証としてNRCを100kcalで割ったが実際の給餌設計とはズレる可能性あり

これは以下の理由で現実的でない:

  1. 猫は偏性肉食動物 – 炭水化物への依存度が低い
  2. 消化能力の限界 – 猫の短い腸管では高炭水化物食の消化が困難

AAFCO基準でも同様の問題

AAFCO基準(1,000kcalあたり)

対象 タンパク質 脂質 炭水化物(計算値)
仔猫用 75g(30%) 22.5g(20.3%) 49.7%
成猫用 65g(26%) 22.5g(20.3%) 53.7%

AAFCOでも炭水化物が50-54%となり、肉食動物には不適切だ。※AAFCOには「炭水化物の最低基準」はないため、ここでの炭水化物%は私が独自にPFC換算した

なぜこんな矛盾が生まれるのか

1. 商業フード前提の基準

NRCとAAFCOの基準は、以下を前提として設計されている:

  • 大量生産される商業フード
  • 穀物などの安価な炭水化物の使用
  • 長期保存と輸送の必要性
  • コスト効率の重視

2. 最低生存基準

これらの数値は「欠乏症を防ぐ最低限」であり、「最適な健康」を目指すものではない。

3. 加工による栄養損失

商業フードでは加熱・押出成型などの加工過程で、脂溶性ビタミン(A, D, E)やアミノ酸の一部が損失する。そのため、NRC基準はこうした加工ロスを見込んだうえで、製造時に必要な添加量を定めている可能性がある。一方、手作り食(特に非加熱や低温調理)ではこのような損失が少ないため、同じ基準値を単純に適用することには注意が必要

手作り食での現実的な栄養比率

野生の猫の獲物分析

野生の猫が捕食する小動物の栄養組成:

  • タンパク質:45-60%
  • 脂質:25-35%
  • 炭水化物:2-5%(主に胃内容物)

手作り食の推奨比率

栄養素 仔猫 成猫
タンパク質 50-60% 45-55%
脂質 25-35% 20-30%
炭水化物 5-15% 5-15%

手作り派はNRC/AAFCO基準を目安程度に

1. 生物学的不適合

  • 猫の進化的な食性と矛盾
  • 消化生理学に反する高炭水化物

2. 栄養密度の問題

  • 低タンパク質では筋肉量維持が困難
  • 成長期の仔猫には特に不適切

3. 長期健康への懸念

  • 高炭水化物食は肥満や糖尿病のリスク
  • 高炭水化物食は肥満や糖尿病のリスク因子となり、これらが間接的に腎疾患の悪化要因になる可能性がある

海外手作り食派のアプローチ|生肉派

1. 獲物モデル(Prey Model Raw – PMR)

野生の食性を模倣した組成:

  • 筋肉:84%
  • 骨:6%
  • 肝臓:5%
  • その他臓器:5%

給餌量の決め方

  • 成猫: 体重の2-4%/日(活動レベルに応じて調整)
  • 仔猫: 年齢別段階的給餌
    • 2-3ヶ月:10-13%/日
    • 4-8ヶ月:6-10%/日
    • 8-12ヶ月:3-6%/日

2. BARF(Biologically Appropriate Raw Food)

PMRに野菜を加えたモデル:

  • 肉類:90-95%
  • 野菜:5-10%(すりつぶして混合)

給餌量の決め方

  • PMRと同じ体重比基準を使用
  • 組成の違いのみで、総量は変わらない

3. 実践的な給餌方法

需要給餌(特に仔猫)

  • 仔猫は欲しがるだけ与える
  • 50gから始めて個体の適量を見つける
  • 成長スパートでは自然に食欲増加

体重モニタリング

  • 週1-2回の体重測定
  • 触診での体型チェック
  • 数値より実際の健康状態を重視

食事回数

  • 仔猫:1日最低5回
  • 成猫:1日2-3回

獲物モデル(PMR)とBARFの給餌量表

成猫の給餌量

活動レベル 体重比 具体例(5kgの猫)
低活動(高齢、室内飼い) 2-3% Perfectly RawsomePerfectly Rawsome 100-150g/日
標準活動 3% Perfectly RawsomeBella+Duke 150g/日
高活動(若い、外出) 4% Perfectly RawsomePerfectly Rawsome 200g/日

仔猫の給餌量(年齢別)

年齢 体重比 理由
2-3ヶ月 10-13% Raw Food Diet Guide for Dogs & Cats | Only Natural Pet 急速成長期
4-8ヶ月 6-10% Raw Food Diet Guide for Dogs & Cats | Only Natural Pet 成長継続
8-12ヶ月 3-6% Raw Food Diet Guide for Dogs & Cats | Only Natural Pet 成長鈍化

より詳細な仔猫ガイド

一般的に仔猫は体重の8-10%が必要で、5ヶ月頃から4-8%に減り、12ヶ月で2-3%になる How Much to Feed and How Often? – Raw Meow Pty Ltdという段階的な減少パターンがある。

給餌の実践的アプローチ

1. 需要給餌(Demand Feeding)

仔猫は需要に応じて給餌し、欲しがるだけ与える How Much BARF To Feed My Cat? – PetCubes方法。50gから始めて、食べ切って更に欲しがれば追加、満足すれば適量 How Much BARF To Feed My Cat? – PetCubesを見つける。

海外手作り食派のアプローチ|加熱食派

加熱派の実際のマクロ栄養素比率

野生猫の自然な食餌組成(WSAVA世界小動物獣医師会):

  • タンパク質:55%
  • 脂質:45%
  • 炭水化物:1-2%

または猫の自己選択研究(学術研究 Vet Times掲載):

  • タンパク質:52%
  • 脂質:36%
  • 炭水化物:12%

NRCやAAFCOどれだけの差異があるのかというと

  • 炭水化物12.5% = NRC/AAFCOの50-60%から大幅ダウン
  • タンパク質52% = NRC/AAFCOの20-30%から大幅アップ

つまり加熱派は…

NRC/AAFCO基準を無視まではいかなくとも、参考程度

実際には:

  1. カロリー計算のみを微妙に参考(雰囲気ぐらい?)
  2. 炭水化物分を意図的にカット
  3. タンパク質・脂質にカロリーを振り分け

理想的な比率を目指している

「10-15%が最低限、理想的には30%以下」 Carb calculator for cat food [dry matter] – Jess Caticlesや「10%以下が理想」という低炭水化物を意識。

つまり答えは…

手作り食(加熱派)も実質的にNRC/AAFCO基準のカロリーやビタミンミネラルなどの項目を参考にはするが、そのまま応用していない。猫の生物学的特性重視し最適化して給餌している印象が強い。

やっていること

  1. NRC/AAFCO/AAHAのカロリー要求量のみ参考程度、必須栄養素項目を参考
    ※AAHA(American Animal Hospital Association)AAFCO(関連組織)
  2. 炭水化物比率は大幅減(12.5% vs 50-60%)
  3. タンパク質比率は大幅増(52% vs 20-30%)
  4. サプリメントで栄養バランス調整(プレミックス使用)

生肉派との共通点

  • 高タンパク質・低炭水化物志向
  • NRC/AAFCO基準への不信(参考程度)
  • 猫の生物学的特性重視

結論

加熱派も生肉派も、実際には同じ栄養哲学

違いは:

  • 生肉派: 自然な栄養バランスで実現
  • 加熱派: 調理+サプリメントで実現

両派とも「NRC/AAFCOの高炭水化物基準は猫に不適切」という結論に達している

まとめ

「猫用 29レシピを評価したすべてのレシピは、NRC(2006)で定義された猫の栄養要件を満たしていなかった。」とよくいわれるが、手作り食派はそもそもNRCやAAFCOを満たそうとは思っておらず、参考程度にしか考えていない。なぜならば、NRCやAAFCOの栄養基準は、あくまでも商業ペットフード製造のための基準であり、手作り食には適用できないからだ。これらの基準に従うと、猫の生物学的特性に反する高炭水化物食になってしまうというのが理由。

手作り食を行う場合は:

  1. 猫の進化的食性を理解する
  2. 獲物モデルやBARFを参考にする
  3. 定期的な健康チェックを行う

しかしカロリーで考えると、色々な矛盾が多くなるのも事実。ここは質をとるか量をとるかが判断基準になるのだろう。真実は「本当の数値は誰にもわからない」数値に縛られず、猫本来の食性に基づいた食事設計が重要なのはわかっているのだが、どうしても落としどころが欲しい、自分が納得できる根拠を探してしまう。次回は海外の手作り食コミュニティで得た情報をざっくり整理してみようと思う。


出典・参考文献

公式基準・文献

  1. National Research Council. 2006. Nutrient Requirements of Dogs and Cats. Washington, DC: The National Academies Press.
  2. Association of American Feed Control Officials (AAFCO). 2023. Official Publication.
  3. FEDIAF (European Pet Food Industry Federation). 2024. Nutritional Guidelines for Complete and Complementary Pet Food for Cats and Dogs.

獲物モデル・BARF給餌ガイド

  1. The Little Carnivore. “What is a Prey Model Raw diet?” (2021)
  2. Perfectly Rawsome. “Prey Model Raw (PMR) Diet for Growing Kittens” (2022)
  3. Perfectly Rawsome. “Prey Model Raw (PMR) Diet for Adult Cats” (2022)
  4. Epoch Pet. “Raw Feeding for Cats: the basics!” (2019)
  5. Bella & Duke. “Raw Cat + Kitten Food Feeding Calculator” (2025)
  6. Pawesome Cats. “Raw Feeding Guidelines: How Much to Feed Your Cat” (2025)
  7. Raw Meow. “How Much to Feed and How Often?” (2024)
  8. PetCubes. “How Much BARF To Feed My Cat?”
  9. Naturavetal. “First steps to BARF for Cats” (2025)

計算ツール・実用ガイド

  1. Your Paws. “Raw Cat Food Calculator”
  2. Only Natural Pet. “Raw Food Diet Guide for Dogs & Cats” (2022)
  3. Cats.com. “Cat Feeding Guide” (2025)

免責:この記事は情報提供を目的としており、獣医師の診断や治療の代替ではない。

 

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