2008年当時、猫の食事はほぼ例外なく市販フードが中心で、手作り食は一部の愛好家だけがやっているニッチな存在だった。
それから10年後の2018年、状況は一変。米国やオーストラリアなどの調査で、市販フードのみを食べる猫はわずか32%まで減少し、68%の猫が「市販フード+手作り食」の併用スタイルを取っていることが明らかになった。
この変化は流行ではなく、飼い主の意識やペットフード市場そのものが変わってきた証拠だ。
年次比較表(猫の給餌スタイルの変化:米国+オーストラリア等)
| 年 | 市販フードを与える割合 | 市販フードのみ | 手作り食併用 | 生食併用 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2008年 | 約98.8% | 95.5% | 2.7% | データ限定 | 手作り食は一部の愛好家に限定 |
| 2018年 | 約90% | 32% | 46% | 53% | 併用スタイルが主流となり、手作り食が急拡大 |
数字が示す劇的な変化
- 2008年:猫の95.5%以上が市販フードのみ。非商業的フィーダーはわずか2.7%
- 2018年:市販フードのみの猫は32%に激減。手作り併用が46%、生食併用が53%に
- 変化幅:わずか10年で市販フードのみの猫は約63ポイント減少(95.5%→32%)
これらは「家庭のキッチンで猫の食事を準備する」文化が急速に広がったことを示している。
地域差の詳細分析
国別給餌傾向の特徴
オーストラリア
- 生食ダイエットの普及率が最も高い
- 手作り食への関心が他国を上回る
- 従来型商業フードの利用率が相対的に低い
米国
- 猫の手作り食が特に人気
- 健康志向と自然派トレンドが影響
- 商業的手作り風製品の選択肢が豊富
カナダ・ニュージーランド
- 従来型フードのみの比率が他国より高い
- 保守的な給餌傾向を維持
- 段階的な変化パターンを示す
ヨーロッパの動向 欧州ペットフード工業連盟(FEDIAF)によると、ヨーロッパでは約60%のペット飼い主が生食や手作り食を実践しており、「自然」「生」「オーガニック」食品への需要が急増している。特にプレミアム製品と機能性食品が主流になりつつある。
日本との驚異的な格差
日本の現状(推定)
- 市販フードのみ:約85-90%
- 手作り併用:約5-10%
- 生食:1-2%程度
海外との比較(2018年データ)
| 項目 | 日本(推定) | 海外平均 | 差異 |
|---|---|---|---|
| 市販フードのみ | 85-90% | 32% | 約-55ポイント |
| 手作り併用 | 5-10% | 46% | 約+40ポイント |
| 生食併用 | 1-2% | 53% | 約+50ポイント |
つまり日本は約10年前の海外レベルに相当し、手作り食普及率で見ると40-50倍の格差が存在する。
なぜこれほどの差が生まれるのか?
文化・社会的要因
- ペットの位置づけ:海外では完全に「家族メンバー」として扱われるが、日本はまだ「ペット」という意識が強い
- 食への関心度:欧米の根深い「オーガニック・自然派」文化vs日本の「安全・便利」重視
- DIY文化:手作りへの心理的ハードルと時間的制約の違い
情報・教育環境の格差
- 専門家数:獣医栄養学専門医が米国約100名に対し日本は数名程度
- 情報量:英語圏のSNS・フォーラムでの活発な情報共有
- メディア露出:海外では主流メディアでも頻繁に特集
市場・商品環境の差
- 選択肢:冷凍生食、手作りキット、プレミアム商品の充実度
- 価格受容性:高価格帯商品への消費者許容度
- 流通インフラ:冷凍・チルド配送システムの発達度
増加の背景にある5つの要因
1. 食の安全志向の高まり
ペットフードのリコールや原材料の不透明さが、自分で選んだ食材を与えたいニーズを押し上げた。特に2007年の中国製ペットフード汚染事件が転換点。(日本ではそんなに話題にならないが、海外のペットフードリコール情報は量と闇が深すぎて・・・)
2. ペットのヒューマナイゼーション(人間化)
猫を家族同然に扱い、人間と同じく”新鮮・無添加・自然”を求める流れが拡大。飼い主自身の食生活の変化(オーガニック志向、加工食品回避など)がペットにも波及。
3. 個別対応のしやすさ
年齢、病歴、アレルギー、好みに合わせて食事を柔軟に調整できる利点が注目されている。
4. 情報共有の容易さ
SNSや海外フォーラムでレシピや調理法が簡単に入手可能になり、参入ハードルが下がった。
5. ハイブリッド商品の普及
完全自炊ではなく、冷凍やチルドの”手作り風”製品、プレミアム缶詰との組み合わせなど、多様な選択肢が登場。
獣医師の視点からの深刻な警鐘
自己流手作り食の栄養バランス問題
UCデイビス大学の2019年研究では、検証した114件の【自己流】自家製猫用レシピすべてに必須栄養素の欠如が見つかった。
主な不足栄養素:
- コリン、鉄、亜鉛、チアミン、ビタミンE、マンガン
- 一部のレシピでは推奨量の50%未満しか含まれていない
- 最大19種類の必須栄養素が不足しているケースも
長期的健康影響の報告事例: 不適切な自己流手作り食により猫の汎脂肪織炎(pansteatitis)、子猫の骨格疾患、カルシウムやビタミンD欠乏による深刻な健康問題が報告されている。
微生物汚染のリスク
米FDA研究では、市販生肉生食製品の約25%からサルモネラ菌やリステリア菌などの有害細菌が検出され、ペットと飼い主双方に健康リスクをもたらすことが判明している。
信頼できる獣医栄養学専門医の見つけ方
正式な資格認定
「Board Certified Veterinary Nutritionist®」は、米国獣医内科学会(ACVIM)または欧州獣医比較栄養学会(ECVCN)による正式な認定を受けた専門医。これらの専門医は3-6年の追加研修と厳格な試験を経て認定される。
検索リソース
- VetSpecialists.com:米国とカナダの認定獣医栄養学専門医の無料検索ディレクトリ。遠隔相談可能な専門医も検索可能
- 地域の獣医科大学:大学附属病院の栄養科
- ACVIM公式サイト:最新の専門医リスト
選択時の注意点
- 「栄養士」「ペット栄養コーチ」等の非認定資格に注意
- 病気の診断や薬の処方をする無資格者を避ける
- 過度な宣伝文句や恐怖心を煽るマーケティングを警戒
- 証明書や学位の内容を詳細確認
商業ペットフード業界の対応状況
プレミアム化の加速
欧州では「自然」「生」「オーガニック」をキーワードとするプレミアム製品が主流化し、機能性食品や健康特化型製品が急成長している。
品質管理の強化
- FEDIAF栄養ガイドライン2024年版の更新
- 生産施設の拡充(2021年比で製造会社数が約2.7倍に増加)
- 第三者認証システムの導入拡大
新製品カテゴリーの創出
- フリーズドライ生食製品
- 冷凍手作り風完全栄養食
- カスタマイズ可能な処方食
今後の展望
「市販+手作り」のハイブリッド型は今後も拡大する可能性が高い。栄養計算や衛生管理ができる飼い主にとっては、嗜好性アップ、水分補給、食材バリエーション拡大の面でメリットが大きい。
重要なのは:
- 獣医栄養学専門医との相談体制の整備
- 適切な栄養計算ツールの提供
- 安全な手作り食に関する正確な情報発信
- 知識不足による栄養の偏りを防ぐための継続的な教育
まとめ
2008年から2018年の10年間で、海外の猫ごはん事情は根本的に変わった。かつては一部のこだわり派だけだった手作り食は、今や過半数の猫が何らかの形で取り入れる一般的な選択肢となっている。
この動きは飼い主の価値観の変化と市場の多様化が後押ししているが、UC Davis研究が示すように、自己流手作りレシピの大半は栄養学的に不適切である。また、長期的な健康影響として汎脂肪織炎(イエローファット)や骨格疾患、生食・生肉においては微生物汚染による感染症リスクも実際に報告されている。
これも自己流ってところがポイントで、「猫は肉食!肉だから!鶏むね肉だけ(牛肉だけ)与え続けた」「魚だけ長期間与え続けた」などの、おかしな偏りとか(外人は平気でする)、生食・生肉においてはやはりサルモネラ菌やらだ。生食・生肉においては「市販の猫用生肉ブレンド」において、事故が多いそうだ。
→じゃあ市販のペットフードはどうなの?その色々な基準をちゃんと満たしているの?→「市販キャットフードは基準を満たしているのか問題 」
流行や自己満足で終わらせないためには、ある程度の根拠に基づいた安全性と栄養バランスを柱に据えた実践が不可欠なのかもしれない。適切な専門知識と継続的なサポート体制のもとで実施される手作り食だと、飼い主も安心だと思われるが日本だとハードルが高いな。日本の「10年遅れ」が今後どう変化するか、注目してみよう。
出典
- Laflamme et al., Pet feeding practices of dog and cat owners in the United States and Australia, JAVMA, 2008
- Dodd et al., An observational study of pet feeding practices and how these have changed between 2008 and 2018, Vet Record, 2020
- Wilson et al., Evaluation of the nutritional adequacy of recipes for home-prepared maintenance diets for cats, JAVMA, 2019
- Villaverde & Chandler, Commercial vs Homemade Cat Diets: What you need to know, Journal of Feline Medicine and Surgery, 2022
- European Pet Food Industry Federation (FEDIAF), Facts & Figures 2025
- US Food and Drug Administration, Get the Facts! Raw Pet Food Diets,
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